ハウス栽培イチゴが実質値上げ 生産減に原油高が直撃
今回は冬の果物のアイドルといわれているイチゴがテーマです。これから冬にかけて、出荷量がどんどん増えていきます。都内のスーパーで現在、1パック500円前後で売られています。かつては1パック400円前後が主流でしたが、100円ほど高くなりました。実は今、イチゴにピンチが訪れています。イチゴに何が起こっているのでしょうか。
1パックの粒少なく
JA全農とちぎやJA全農ながさきは、「とちおとめ」や「ゆめのか」といった主要品種のイチゴパックの容量を減らしました。今年の冬は従来より20グラム、約7%の減量です。2段詰めのレギュラーパックの場合、粒にして大きいイチゴで1つ、小さいもので2つほど少ない計算になります。フルーツ店やスイーツ店に販売する業務用も減量されます。
実質値上げといえる今回の取り組みの背景には、生産量の減少があります。農林水産省によると、2020年の収穫量は16万トン程度とこの10年で約1割減りました。栽培する農家や農業法人が減り、栽培面積が少なくなっています。20年の農林業センサスを見ても、農家は15年と比べて約3割減少し栽培面積は16%減っています。ナスやミニトマトなど他のハウス栽培の野菜と比べて、労働時間が長く作業負担が多いこと、生産者の高齢化が進む一方で後継ぎが少ないことが理由に挙げられます。
イチゴ栽培の年間作業時間は2000時間を超えており、他のハウス栽培の野菜と比べて2倍かかります。年間の作業時間の割合をみると苗を畑に植えてから収穫までが全体の6割ですが、パック詰めだけで3割を占めています。
原油高で生産コスト上昇
もう一つが原油高による生産コストの上昇です。資材費や温室用の燃料費が上がっていて、負担が重くなっています。この時期のイチゴはハウス栽培がほとんどです。ビニールハウス内の温度が8度以下にならないように暖房を使って調節しますが、その燃料になるのが重油や灯油です。
イチゴ5万6000株を栽培する関西最大級の農園を運営する「おさぜん農園」(京都府八幡市)によると、昨シーズンは灯油と重油を合わせて約500万円かかったそうです。「今年は重油や灯油が値上がりしているため、昨年と同じ使用量の場合150万円分の負担増になる」(長村善和代表取締役)。負担を減らすために、重油や灯油の使用量削減へ工夫する予定です。
温室の暖房費は、冬場の気温にも大きく左右されます。昨年は全国的に暖冬でしたが、今年の冬の寒さがどうなるのか、どの農家さんも気をもんでいます。千葉県市川市で「太田いちご園」を運営する太田裕士さんは暖房機のメンテナンスのほか、ビニールハウスのカーテンを二重から三重にするなどして冷気の浸入を少しでも抑える対策をしています。
パックやセロハンも値上がりしています。おさぜん農園によると、今年9月にビニールや農業用パイプが10%値上がりしました。仕入れ業者からは「来年1月以降にも再度5~10%程度値上げする」という連絡があったそうです。燃料や資材の値上がり対策として、長村さんはイチゴ狩りの入園料やパック販売の値上げを検討しています。
きょうの値段の方程式はこうなります。
イチゴの実質値上げ=生産減+人の手間+原油高
イチゴの値上げは、クリスマスに欠かせないケーキにも影響が出るかもしれません。1パックの減量は業務用でも行われます。製菓店はすでに仕入れる数が決まっているため、原材料価格の上昇分を販売価格に転嫁するかイチゴの個数をちょっぴり減らす可能性があります。
収穫作業に省力化の動き
今後も値上がり傾向は続くのでしょうか。カギとなるのが省力化です。収穫作業の負担を軽減して生産性を高めるため、装置を導入する動きがあります。自動栽培装置は19年に全国で初めて佐賀県で実用化され、導入前に比べ収穫量が増加しました。この装置は横5メートルほどのプランター台が左右に並び、ゆっくり循環します。腰を折り曲げたりひねったりする動きが大幅に減らせるため、働く人の負担が減ります。
通路の確保が必要ないためプランターとプランターの間隔を詰めることができ、従来の1.5倍前後の収量に増やすのも可能ということです。500平方メートル規模の場合、システムだけでおよそ1000万円かかりますが、かかった費用を回収するのは十分可能だということです。
ただイチゴはデリケートな作物なので、パック詰めなど人の手でやる作業はどうしても残ります。コスト面からみるとイチゴ価格は今よりも大幅に下がることはなさそうです。各産地の新ブランドも開発ラッシュです。より高級化が進むのは間違いなさそうです。
(BSテレ東「日経モーニングプラスFT」コメンテーター 村野孝直)
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜から金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。
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