サツマイモ、人気も値段も上昇中 品種こそ増えたが…
まだまだ肌寒いこの季節。ホカホカの焼き芋がおいしいですよね。サツマイモは最近、安定した人気があり価格は上昇しています。東京都中央卸売市場では平均の卸値がじわじわ上がっており、2021年には1キロ289円と5年前に比べて約3割上昇しています。値上がりの理由を探りました。
専門店が続々オープン
サツマイモ専門店「oimo lab.」(東京都江東区)で取材しました。こちらでは焼き芋やサツマイモのプリンなどを販売しています。おすすめは「プレミアムシルクスイート」。シルクスイートは、10年ほど前から作られているサツマイモの品種です。食べてみると、口に入れた瞬間とろけます。本当になめらかで甘くて、すっと溶けていく感じです。スチームコンベクションオーブンでまんべんなく熱を行き渡らせ、蒸気の力でおいしさを閉じ込めます。価格はMサイズで500円です。
ほかにも、ねっとり系の「ふくむらさき」やホクホク系の「しろほろり」を焼き芋として販売しています。店の担当者は「サツマイモの値段は全体的に総じて上がっており、農家によっては1.5~2倍のところもある」と話します。
このようなサツマイモ専門店を街でよく見かけるようになりました。「焼き芋スイーツ」は若い女性の間で人気です。甘みがあってヘルシーで栄養価も高いので、ダイエットフードとしても注目されています。最近ではかき氷に焼き芋をトッピングする食べ方も広がっています。
海外でも人気に
海外でも人気で東南アジアや北米の評価が高いです。貿易統計によると輸出量は右肩上がりで、中でも香港が半分以上を占めています。香港では小さいサツマイモがおやつの定番で、日本で需要の少ない小ぶりのものを出荷したところ大人気になったそうです。
今、焼き芋は第4次ブームに入りました。歴史の中で注目したいのが、1989年の「焼き芋オーブン」の登場です。これによってスーパーやコンビニなどで販売が始まりました。コンビニでは焼き芋の販売が増え、おでんや肉まんと並び冬の定番商品になりつつあります。人気の勢いは止まらず、最近では「さつまいも博」というイベントもあります。さいたま市のさいたまスーパーアリーナで開かれる日本最大級のサツマイモの祭典です。焼き芋グランプリでは数多くの商品が販売されます。
これだけたくさんの商品があるのは、甘さや食感が異なる品種が多く誕生しているからです。農研機構が品種改良を手がけています。茨城県つくば市の中日本農業研究センターは戦前から品種改良の歴史をつないできました。貴重な種芋が1600種類も保管されています。「ベニアズマ」や「べにはるか」といったエリート品種も、ここから生まれました。
品種改良はまだまだ続いており、昨年発表したのが「あまはづき」です。農研機構が約10年かけて開発しました。「ベニアズマ」や「べにはるか」より、多くの糖分を含んでいます。一般的に収穫したばかりのサツマイモは甘みが少ないとされており、一定の温度に保った施設で貯蔵しデンプンを糖化させて出荷します。貯蔵期間がベニアズマで半年、べにはるかは1~2カ月かかっていました。しかし、もともと糖分が多い「あまはづき」は、この貯蔵工程が不要になります。従って、貯蔵コストを下げられる可能性があります。
農家の高齢化や病害がネックに
新品種が続々誕生しているサツマイモですが、全体的な生産量は減少傾向です。高齢化によって生産者が減っているためです。重くて収穫や出荷の際の負担が大きいため、栽培を敬遠する農家が増えています。もう1つの理由が病害の流行です。サツマイモ基腐病といって、感染すると茎や葉が変色して土の中の芋の腐敗が進みます。2018年に沖縄県で初めて確認され、現在は21都道県に拡大しています。
きょうの値段の方程式です。
日本で最初の焼き芋ブームとされるのが江戸時代後期。当時は「甘くて安い」のが庶民の人気になりました。ブームは盛り上がってもあまり高級品にならずに、手ごろな値段で味わいたいですね。
(BSテレ東「日経モーニングプラスFT」コメンテーター 村野孝直)
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