本×出会い「ロマンチック届ける」 電通→起業の女性

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「本棚で同じ本を取ろうとした人と手と手が重なるような、ロマンチックな出会いがある本屋を開きたい」という思いで、書店と出会いを同時にかなえるオンライン書店「Chapters bookstore(チャプターズ)」をスタートさせたMISSION ROMANTICの代表取締役、森本萌乃さん。2021年6月のグランドオープンから約3カ月で、出版取次大手のトーハンからの資金調達に成功しました。資金調達までの道のりと、出資される側、する側のメリットについて聞きました。

「余白のない毎日にロマンチックを届けたい」が起業のきっかけ

日経xwoman編集部(以下、――) オンライン書店を始めたきっかけは?

森本萌乃さん(以下、森本) 学生時代から祭りごとが好きで、「祭り前夜のようなわくわくする仕事がしたい」という思いから、大学卒業後は広告代理店の電通に入社しました。同じ志の社員が多く、仕事は充実していましたが、広告代理店はBtoB(企業向け)で直接お客様の反応を感じることができない点に、もどかしさを感じるようになりました。

「ユーザーの心や笑顔を直接感じたい」という思いが日々つのり、このまま仕事を続けていいか悩んでいたときに、BtoC(消費者向け)である雑貨サブスク(サブスクリプション、定額利用サービス)のMy Little Boxから誘いを受け、転職しました。その後、オーダースーツブランドのFABRIC TOKYOに転職、契約社員になりましたが、コロナ禍と重なって契約終了。転職先を探しましたが行きたい企業が見つからず、FABRIC TOKYO在籍時にパラレルキャリアで始めた自身の会社MISSION ROMANTIC一本に絞ることを決めました。

パラレルキャリアで働いていた時は、自身のやりたいことをやってみる、という実証実験に近い起業だったので、会社員であることと自分が起業家であることは、生きていく上でセットでした。ただ、起業してやりたいことをやっている時間が本当に楽しくて。「これでお金を生み出せたら最高だろうなあ」という気持ちが強くなっていきました。

結果的に、起業時に感じた「余白のない毎日にサプライズやロマンチックを届けたい」という気持ちを信じ、コロナ禍を契機として自分自身の会社をきちんとビジネスとして育てていく方向に舵(かじ)を切りました。

MISSION ROMANTIC代表の森本萌乃さん

19年2月の起業当初、「ロマンチックを届ける」というコンセプトで具体的に何ができるか考えたとき、脳裏に浮かんだロマンチックは「バーで『あちらの席の方からです』とマティーニが出てくる」「袋いっぱいに入ったパンを街中で落としてすてきな人に拾ってもらう」「本棚で手と手が触れ合う」などでした。その中で、もっともときめきを感じたのが「本」。幼少期から読書が好きで、書店主になることは憧れでした。

同時に、その頃よく利用したマッチングアプリの「条件で相手を探す」行為に違和感を覚えていました。「効率的かもしれないけど、心に余白がないし、出会う前から疲れてしまう」と。

出会いにロマンチックな要素を求める人は、きっと多いはず。ならば、本を通じて出会う、それこそドラマのように「本棚で手と手が触れ合う」出会いの場を提供しよう! と思い立ち、オンライン書店を始めました。

―― オンライン書店でどのような出会いのチャンスがあるのですか?

森本 「Chapters bookstore(チャプターズ)」の登録会員に、毎月4冊の本から1冊を選んでもらって送ります。その後、同じ本を読んだ会員同士でオンライン交流会を実施して、新しい出会いにつなげています。コロナ禍になる前は、「MISSION ROMANTIC book」の書店名で、リアルで会う食事会を開催していました。コロナ禍でリアルに会うことや食事会の開催が難しくなり、システムを見直すタイミングで書店名を「Chapters bookstore」に変えました。

「今後さらにロマンチックな書店にするためには、新たなシステム構築が必要」そう感じて、資金調達をすることにしました。

登録会員は毎月4冊の本から1冊を選び、読む。その後、同じ本を読んだ会員同士のオンライン交流会に参加することで新しい出会いにつながる

「利益が見えない事業に投資はできない」から見つけた別の道

―― どのように資金調達にこぎつけましたか?

森本 始めは、ベンチャーキャピタル(成長が見込まれる未上場のベンチャー企業やスタートアップ企業へ投資する会社)に相談しました。20件以上と交渉しましたが、利益が見えにくい事業という理由で調達には至りませんでした。そのとき共通して「本屋なの?マッチングなの?どちらかに絞らないと事業がボケるよ」と言われました。

私は「本」と「マッチング」がやりたかったので、どちらかに絞る必要性をどうしても感じられませんでした。投資会社は利益を生まない事業に投資はできないので、当たり前の指摘でした。ですが、私の目標は「まずは自分の信じたロマンチックを事業にしてみる」だったので、事業の作り方が違うかもしれないと感じて、ベンチャーキャピタルへの交渉をやめました。

「『利益を生むか』が基準の投資会社と『ロマンチックな体験』の先に利益を生みたい自分との考え方の相違が明らかになり、投資会社への商談をやめました」(森本さん)

それでもやっぱり、お金がないと自分の作りたいものを作れないし、会社も存続できない。その時に考えた交渉先が、出版・書店業界へのアプローチでした。紙媒体が売れなくなってから、書籍の業績不振は知られるところでしたので、出版・書店業界の新たな事業として興味を持ってくれるのではないかと思いました。その話をした会社の一つが、本の仕入れ先であるトーハンでした。

門前払いかな……と思いましたが、事業内容に興味を持ってもらえ、相談してから約4カ月で出資実行となりました。トーハンとして初めての、小さなベンチャー企業へのスタートアップ期の投資が弊社というのは本当にうれしいですし、ちょっと誇らしいです。

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ベンチャーが老舗企業の変革の突破口に