既存の大人のセンスで選別しない

これまでも企業が子どもたちからアイデアを募集したり、共同プロジェクトに挑戦したりする取り組みがなかったわけではありません。でも、それらは企業や社会へのインパクトという意味ではほとんど成果を出していません。なぜなのか。それを探るため、当社の副社長の永田暁彦はある時、試験的に小学生と時間無制限で議論しました。その後、彼は取りつかれたような顔で私に言いました。

「出雲さん、これまでの取り組みがうまくいかなかった理由が分かりました。それは子どもたちの質の問題ではなく、企業の聞く姿勢の問題です。本音では『子どもは知識が足りず、会社や社会のことを知らない』『大人がこれだけ考えて分からないのだから、子どもが分かるわけがない』と思っていることが、子どもたちに見抜かれているのです。でも、子どもたちは実にいろいろなことを真剣に考えています。大人がこれまでの考え方を根本から変え、本気になれば、彼らも本気でアイデアを出してくれます」

その言葉を聞いて、私は10代の若者にCFOを任せようと決めました。そんな話をすると大抵、「じゃあCFOからはどんなすごいアイデア、面白いアイデアが出てきたのですか」と聞かれます。でも、考えてみてください。会社や私が「それはいいアイデアだ」と称賛するようなアイデアは、あくまで既存のやり方の延長線上の「いいアイデア」なのです。見知らぬおじさんたちから簡単に「いいね」と言われるような、大人の期待する正解に沿うアイデアではイノベーションやCXは不可能です。

しかも、とっぴなアイデアがすぐに出てくるほど現実は甘くありません。大人はついつい「何かいいアイデアを思いついた?」とせっつきたくなりますし、「まだその程度か」などと思いがちです。でも一度でもそんなことを言われたら、子どもたちが「この会社のために頑張ろう」なんて思うわけがありません。そのくらい繊細なのだということを大前提に、いいとこ取りすることだけは絶対に避けなければなりません。「どんな内容でもいいし、全部否定せずに受け止め、まずは実行することを約束します」。そう伝え続けて初めて突拍子もないアイデアが出てくるのです。

会社のメンバーには、CFOとサミットメンバーの提案の中身を精査しないように口すっぱく言っています。「非現実的だ」とか「うちの会社は○○だから無理」と既存のセンスでスクリーニングされて残ったアイデアには何の輝きもないし、価値もありません。既存の価値観によるスクリーニングなしに「会社まるごと変える」ことを最優先に据える会社の覚悟とCFOがうまく結びつけば、最速で最高のCXができる。そのことを証明したいと思っています。

リーマン・ショックに東日本大震災、そして新型コロナウイルス禍に見舞われ、今までの大人が作り上げてきたルールの多くは見直しを迫られています。人々の価値観や生活が大きく変わる中で、ビジネスもこれまでのやり方や考え方では生き残れません。「未来を担うあなたたちの話をまっさらな気持ちで聞きたい」。そう本気で若い世代に語りかけられる企業だけが、イノベーションに役立つ話が聞ける。私は2年間続けてきて、試されているのは大人の方なのだとつくづく感じています。

出雲充
1980年広島県生まれ。2002年東大農学部卒、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。05年ユーグレナを創業。同年、世界初となる微細藻類「ミドリムシ(学名・ユーグレナ)」の食用屋外大量栽培に成功。世界経済フォーラム(ダボス会議)のヤンググローバルリーダー。第1回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」受賞。経団連審議員会副議長。

(ライター 石臥薫子)

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