学校が指定するより先に保護者が先にランドセルを選ぶ
一方で隠れ教育費にメスが入りづらい状況には、現代社会にも原因があると栁澤さんは言います。
「ほとんどの家庭で、小学校に入学する際にランドセルを購入すると思います。でも、このランドセルは法律などで規定された学用品ではありません。学校によっては指定しているところもあるかもしれませんが、全てではありません。それでもなぜほとんど日本中の小学生がランドセルを背負うかというと、学校が指定するより先に、現代社会がランドセルの購入を促し、それを保護者が選んでいるからです」
つまり学用品とはこうあるべきというものを、社会や保護者が文化として抱え込んでいる側面もあるわけです。さらにこうした「学用品はこうあるべき」という視点は学用品を購入する際の意識にも働いていると言います。
「例えば、『学校からの徴収は他の出費を抑えてでも最優先で支払わなくてはいけない』という意識や、『何のために使う教材だかよく分からなくても、言われたからには払わなくてはならない』という意識。また、学校からあっせん品があれば、なぜそれがあっせんされるのかよく分からなかったとしても、『そういうもの』だとして、従うべきだと捉えてしまう傾向。時に保護者としてはもっと安いモノがよかったとしても子どもから『みんなと一緒がいい』と言われればそれを買わざるを得なくなってしまう……などと、結果的に内発的な強制力を伴い、保護者は言われた通りにお金を支払います」
状況打開のためにできる3つのこと
学校側は風土的にも余力的にも状況を変える準備がなく、保護者側は学用品を「買わなくてはならないもの」として捉え最優先してきた結果、高額な学校指定品や、膨大な量の学用品が整理される機会を逸してしまっていると栁澤さん。では、こうした状況を打開するためにどのようなことができるのでしょう。
「学校側に関しては、隠れ教育費となっている各種教材・学用品の適正化だけでなく、国や自治体の教育施策を学校現場に浸透させるための管理職として、教頭・副校長と対になる事務局長的な職を置くといった組織改革が必要だと感じています。一方で、保護者にできることは、声を上げることだと思います。具体的な声の上げ方には3つの方法があります」
【1:学校運営協議会に意見を出す】
「学校は教育活動や学校運営について評価をし、その結果に基づき改善の取り組みを行うことが、学校教育法によって規定されています。この評価方法には『自己評価』、『学校関係者評価』、『第三者評価』、という3種類の形態があり、2つ目の『学校関係者評価』を担っているのが多くの場合学校運営協議会です。
学校運営協議会は地域住民や保護者代表などから構成される学校とは一線を引いた別の組織です。外郭組織といってもいいかもしれません。学校運営協議会は、学校運営の基本方針について承認する権限を持ち、学校運営について教育委員会または校長に意見を述べることができると規定されているほどの組織です」
だからこそ、学校運営協議会に意見を届けるということは非常に効果的だと栁澤さん。
「学校運営協議会のメンバーは学校のウェブサイトなどで公表されていますから、その中に相談しやすい人、たとえば町会関係者やPTA役員などを探し、意見を伝えることがよい方法だと思います」
【2:自己評価のために実施される保護者アンケートに意見を書く】
とはいえ、学校運営協議会に意見を伝えるには、コネクションが必要であったり、少し勇気が必要だったりします。もう少し手軽なアクションが、保護者アンケートに意見を書くことだそう。
「学校自身が評価をする『自己評価』のために教職員や児童・生徒、そして保護者に対してアンケートを実施する学校は多いです。この保護者アンケートに書いた意見は文字化・共有されるため、ここに気付きを書くことで、見直しのきっかけになるチャンスはあります」
ただし、現状ではこのアンケートにも欠点があると栁澤さん。
「保護者からよく聞く言葉として『学校に子どもを人質にとられている』という感覚があるようです。記名アンケートにどこまで書いてよいのか? 下手なことを書いたらモンスターペアレントだと思われるのではないか? という不安があると思います。学校側から『これは気付いたことを書いてよいアンケートなんだ』というメッセージをしっかりと出し、保護者の精神的安心を保障する配慮が十分にされるべきですね」
【3:キーパーソンに伝える】
「3つ目は学校にとってのキーパーソンに直接話をすることです。キーパーソンとは誰かというと、『学校に声を届けてくれる人』です。私は事務職員ですが、保護者ともよく話をするため、保護者からも『ここ変えられないかな?』という相談を受けることがたびたびあります。学校内で変える力や意欲のある教員でもよいですし、校長と関わる場面が多いPTA会長や、PTA役員、そうしたつながりがある人がいればその人でもよいでしょう」
社会が変われば学校も変わる
いずれにしても、大事なのは声を伝える努力をすることだそう。
「違和感を持ったならば、まずは保護者同士からでもいいので声に出してほしい思います。『いつか学校が気付いてくれるのでは』と黙っていても、先述の教員の多忙化や組織上の問題などから、学校側から気付いて変わっていくということは、よほどの改革者がいないと難しいのが現状です。
LGBT(性的少数者)の存在が社会的に注目されるようになり、制服を変える学校が増えてきたように、社会や学校を取り巻く空気が変われば学校は不思議なくらい変わります。みんなで学校をつくっていくのだという意識のもと、一人ひとりの保護者が、気付いたことや違和感を臆することなく学校へ伝えていく努力をしていただけるとうれしいです。
子どもの貧困、同調圧力……モノの周辺にはさまざまな課題があり、その解決手段の1つになり得ることも事実です。学校を支える地域住民、そして保護者として、子どもを取り巻く環境をよりよく変えていくために、どのような行動ができるのかという認識を、ぜひ持っていただければと思います。知識は認識を変え、行動も変えていきます」

(取材・文 須賀華子=日経xwoman DUAL)
[日経xwoman 2021年8月26日付の掲載記事を基に再構成]