「時代との対話」を継承

――曲作りのリーダーとして仕事の付き合いで心がけてきたことはありますか。

「僕のモットーは『来る者拒まず、去る者追わず』。基本的に人間が好きなんです。でも新しいことに挑戦するのも好きだから、日本の歌謡界では新人の作曲が多かった。ピンク・レディー、山口百恵、狩人、ペドロ&カプリシャス……。すでに地位を築いた大スターよりも自分の手で一から育て上げたいという気持ちの方が強かったですね」

「唯一の後悔は歌謡界の大御所、美空ひばりさんの曲を手がけなかったこと。何度か依頼はあったのですが、うまくタイミングが合わずに実現しなかった。でも演歌からジャズまであらゆるジャンルを歌いこなす歌唱力はやはり天下一品。まだ若くして急逝されたのは本当に残念でした。せめて1度くらいは仕事でご一緒できたらよかったなと今では少し悔やんでいます」

――今後の夢は何ですか。

「文化庁長官に就任したので作曲家としての仕事がやや後回しになっていますが、夢はミュージカル作品の世界公演ですね。テーマの一例は葛飾北斎。88歳の長寿を全うした希代の浮世絵師の人生を様々な人間模様を絡めながら描いたら面白いよねと仲間たちと構想を温めています。とにかく僕は作曲家として『時代との対話』をずっと続けてきた。その対話を次世代のクリエーターにしっかりと継承するのもリーダーとしての大事な使命だと感じています」

(編集委員 小林明)

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健康法は愛犬との散歩

文化庁長官に就任して以来、生活リズムは大きく変わった。公務が激増し、週1~2回だった大好きなゴルフも月1回程度に控えざるを得ない。そこで足腰の運動不足解消に欠かせない日課になっているのが雌の大型犬との散歩だ。

出会いは10年前。里親を探している保護犬がいると聞き、会った途端に一目ぼれ。緑豊かな東京・白金の自宅周辺を朝晩ほぼ毎日、散策する。「子どもが居ないから娘代わり」という愛犬との触れ合いが貴重な息抜きになっている。

とくら・しゅんいち 1948年東京生まれ。外交官の父の赴任で小学校と高校をドイツ(西独)で過ごす。幼少からクラシック音楽に親しみ、青春時代はロック音楽にも熱中。古風と現代が混在した和洋折衷の独特な感覚を身に付ける。
 学習院大学在学中に作曲家デビュー。「狙いうち」「五番街のマリーへ」「ペッパー警部」「あずさ2号」などヒット曲を量産した。日本音楽著作権協会(JASRAC)会長、横綱審議委員会委員などを歴任。2021年4月文化庁長官就任。
■リーダーを目指すあなたへ
何でも好きなことを見つけて挑戦してほしいですね。夢への挑戦を続ければ、経験を通じて人は育つ。行動しないと得るものは何もない。国際化時代は語学力がさらに重要になる。国を飛び出してもがくほど成長できます。

[日本経済新聞夕刊 2022年7月21日付]

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