“一発屋”で終わらせないブランド術 第4回

2012年に日本上陸をするや否や、整理券を配布し入店規制をかけるほどの一大ブームを巻き起こした、デンマーク発の低価格雑貨ストア「フライング タイガー コペンハーゲン」。しかし上陸から3年ほどするとそのブームは一段落し、15~17年にかけて「停滞期」に入った。立て直しを図ったのが、19年に代表取締役CEO(最高経営責任者)に就任した松山恭子氏だ。フライングタイガーの驚異の復活劇には、ヒットからロングセラーへと変身するためのヒントがあった。

日本上陸の翌年、2013年10月に東京・表参道にオープンした「フライング タイガー コペンハーゲン表参道店」入り口。東京初進出とあり、オープン当初は後を絶たない来店客に対応するため、最大で15台のレジを稼働させていたという。当時から在籍しているスタッフは、「表参道店で整理券が不要になるまで、1年はかかった」と言う。
日本上陸の翌年、2013年10月に東京・表参道にオープンした「フライング タイガー コペンハーゲン表参道店」入り口。東京初進出とあり、オープン当初は後を絶たない来店客に対応するため、最大で15台のレジを稼働させていたという。当時から在籍しているスタッフは、「表参道店で整理券が不要になるまで、1年はかかった」と言う。

 カラフルでポップなデザインと、100円台からのリーズナブルな価格帯で人気を集める、デンマーク発の低価格雑貨ブランド「フライング タイガー コペンハーゲン」(以下、フライングタイガー)。日本には2012年7月に上陸し、大阪・心斎橋に1号店をオープンすると、客が殺到。品切れ状態が続き、数カ月間は休業と営業再開を繰り返していたという。そこから10年が経過したが、決して順風満帆だったわけではない。上陸当時の熱狂は3年ほどで去り、15年から17年にかけて店舗数の縮小や既存店の販売不振など、「停滞期」が訪れたのだ。

 販売不振の大きな理由の1つが、新店オープンからしばらくたった後の売り上げの急降下だ。日本人は、海外発のブランドや新商品に飛びつく傾向がある一方で、飽きやすいともいわれる。フライングタイガーでも、新店を出せば100~200人ほど待ち行列ができるなど、新規開店直後は大きな売り上げが立つものの、しばらくすると客足が減り、売り上げが急降下するという問題に直面したのだ。当然、こうした状況を打破するためにさまざまな試行錯誤を続けていたが、上陸当時の「圧倒的な成功体験」から抜け出せず、大胆な改革を起こすことができなかった。

 そんな中、日本上陸以来、初めて店舗数が前年を下回った17年に、フライングタイガーを運営するZebra Japan(東京・渋谷)に入社したのが現代表取締役CEO(最高経営責任者)の松山恭子氏だ。松山氏は、ファーストリテイリングのマーケティング部リーダーや、ジーユーでマーケティング部長を歴任した実績を持つ。その手腕が買われ、Zebra Japanに経営企画部長として入社し、その後COO(最高執行責任者)に就任した。

 改革に当たった松山氏は、大きな決断をする。「デンマーク発」というブランドの根幹はそのままに、販売戦略においては本国主導から脱却を図り、次々に日本独自の戦略を打ち出していったのだ。同氏が起こした改革の秘策は大きく5つある。

松山 恭子 氏
Zebra Japan 代表取締役CEO(最高経営責任者)
東京生まれ。高校生までニュージーランド、米国で過ごした経験を持つ。新卒にて、ゴールドマンサックス証券に入社。慶応大学大学院経営管理学科修士を取得後、日本ロレアル、ファーストリテイリング、ユニクロを経て、リヴァンプにて事業再生案件を担当(Disney Store、SONOKO 上海事業)。その後ジーユーを経て、2017年にZebra Japanに経営企画部長として入社。19年1月にCOO、7月に代表取締役CEOに就任。

秘策① 「“本当の意味で”知られている存在なのか?」を見直す

 「フライングタイガーが、日本で再浮上するにはどうしたらいいか」(松山氏)――。まず松山氏が行ったのが、経営視点での問題の洗い出しだ。例えば大量に残った在庫に対しては、発注の仕方を見直してはどうか? など、経営に負担をかけていた部分を1つずつつぶしていった。こうした問題は部署をまたいで複数存在しており、それらを根本的に解決するために、部署横断のプロジェクトを立ち上げた。

 マーケター出身の松山氏は、経営面だけではなく、マーケティング視点でも「再浮上する方法」を考えた。その1つが、「フライングタイガーはよく知られているブランドかもしれないが、“本当の意味”で知られている存在なのか?」と、見直すことだ。これがブランドの立て直しにつながった1つ目の秘策だ。

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