動悸や微熱、目の異常 バセドウ病も疑ってみよう
芸能人や文化人が時々公表するバセドウ病は、新陳代謝が活発になりすぎて動悸(どうき)や発汗など不快な症状が表れる病気だ。心臓に負担がかかって心不全を起こすこともあるので、おかしいと思ったら早めに受診してほしい。
のど仏の下にある甲状腺は細胞の新陳代謝をうながす甲状腺ホルモンを分泌する器官だ。「甲状腺ホルモンを作りすぎる病気を甲状腺機能亢進(こうしん)症というが、その9割近くを占めているのがバセドウ病」と昭和大学横浜市北部病院甲状腺センターの福成信博センター長は話す。
甲状腺ホルモンは甲状腺刺激ホルモン(TSH)にコントロールされているが、バセドウ病になると「抗TSH受容体抗体」ができて甲状腺ホルモンが大量に作られる。
新陳代謝が活発になりすぎることで、動悸、発汗、微熱、手のふるえなどの症状が表れる。食欲が増し、たくさん食べても太りにくく、食事の量が変わらなければやせていく。「目が飛び出てくる眼球突出は2~3割にしか見られない」(福成センター長)が、ほかにも眼球の運動障害、まぶたのむくみなど目に異常が出てくることもある。
患者の8割以上は女性で、20~40代の若い年代に多く見られる。やました甲状腺病院(福岡市)の佐藤伸也院長によると「出産から3カ月以降にも起こりやすい」という。そのため、産後うつなどと間違われることも多い。
脈が速くなり、心臓にとっては常に歩き続けているような負担がかかる。心不全を起こすこともあるので、放置してはいけない。また「骨の代謝が進んで骨粗しょう症になったり、眼球を動かす筋肉が肥大して物が二重に見えたりする(複視)ことがある。稀に視神経を圧迫して失明することもある」と佐藤院長は指摘する。患者が妊娠すると胎児にも抗体が受け継がれ、新生児バセドウ病になる。
自分ではなかなか気づきにくい病気だが、発見のポイントは大量の発汗や心拍数の増加だ。「横になっていても1分間の心拍数が100以上あったら要注意。内科でもよいが、バセドウ病が疑われるときは内分泌代謝科に行くのがベスト」と福成センター長は助言する。
治療法は甲状腺ホルモンを抑える抗甲状腺薬を使う薬物療法が基本で、ほかに甲状腺を摘出する手術と放射性ヨウ素が入ったカプセルをのむアイソトープ(放射性ヨウ素)治療がある。
抗甲状腺薬の副作用としては、かゆみ、湿疹、肝機能障害、白血球の減少などが報告されている。これらの副作用が表れなければ数カ月で甲状腺の機能は正常になっていく。症状が収まれば薬をやめられるが、再発もしやすい。「甲状腺の機能が正常化すると減っていた体重が元に戻るため、若い女性など勝手に薬をやめて再発することが多い。くれぐれも自己判断で薬を中止しないでほしい」と福成センター長は注意する。
アイソトープ治療では、放射性ヨウ素の入ったカプセルを基本的に1回服用する。体内に入ったヨウ素は甲状腺に集まり、そこで放射線を出して甲状腺を破壊していく。
ただし「眼球突出など目に症状がある人は悪化することがあるので放射性ヨウ素は避けるべきだ」(佐藤院長)。また、妊娠中の女性も対象外になる。甲状腺の摘出手術は1週間程度の入院が必要になる。短期間で治り、再発しにくいこともメリットだ。
手術やアイソトープ治療を行うと甲状腺の機能が低下するため、やがて甲状腺ホルモン剤をのまなければいけなくなる。しかし「抗甲状腺薬に比べると甲状腺ホルモン剤はずっと安全性が高い。安心してのみ続けられる」と佐藤院長はいう。
(ライター 伊藤 和弘)
[NIKKEI プラス1 2022年7月16日付]
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