転勤制度は企業にとってマイナスの側面も

転勤を含む異動の経験は、人材育成面において効果があることは否定できません。新しい土地で新たな職務に取り組み、そこで業務に必要な人的ネットワークを広げることは、越境学習的な側面もあって個人の能力や成長を高める場になっていたかもしれません。それは男女問わずに言えることです。

また、業務内容によっては、転勤が組織運営上において不可欠だという場合もあるでしょう。たとえば、総合商社においては、国内ばかりか海外赴任は一般的なものとして運用されています。

一方、女性社員が増加していく中、個人の事情で転勤が難しいケースも増えてきています。育児・介護休業法においては、社員を転勤させるときに、育児や介護を行うことが困難になる社員について、育児や介護の状況を配慮しなければならない規定があります(育児・介護休業法第26条)。企業が無制限に人事権として転勤を行えば、権利乱用により無効と判断されるリスクもあるでしょう。

そこで企業のなかには、転勤する範囲を一定エリア内に限定したり、配偶者の転勤に同行する場合に一定期間の休業を認めたり、転勤を免除したり、様々な対応を行っている場合もあります。しかし、これらはいわば対症療法であって、企業が個別事情への配慮に苦慮している側面は否めません。

さらにコロナ禍以降、デジタル化が進み、広くテレワークができる環境になってくると、生産性やモチベーション向上のために働く場所を選びたい人や、自分のライフスタイルに合わせて働き方を選びたい人たちが、男女問わず出てきています。転勤が多い企業に就職・転職することで、生活設計が立てにくくなるのは明らかです。転勤政策を続ければ、企業にとって人材確保が将来的に厳しくなるかもしれません。

男女ともに働きやすい環境を

個別の配慮をするにしても、転勤にかかる様々なコストを考えてみても、企業の負担は決して少なくありません。このような状況を鑑みると、企業にとっても転勤政策のあり方について今後検討が求められてくるのではないでしょうか。

人材育成を狙いとして転勤を運用しているなら、他の方法で育成や人的ネットワークを広げることはできないでしょうか。テレワークで地理的に自由にチーム編成などができるようになったとき、誰に何をやらせるのか、改めてタレントマネジメント(人材の適正配置や育成)が重要になってくるでしょう。

多くの事業所拠点を持つ大企業に勤めれば、いつ転勤命令が下るかわからない。それは当たり前のものだと長く考えられてきました。転勤を拒めば、キャリアへの階段を外されかねません。長期雇用が前提の中で、組織の論理に従うことは、極めて自然なことだったと言えます。

しかし、こうした「当たり前」の働き方が、女性たちのキャリアの阻害要因になっていることを忘れてはなりません。女性一方にしわ寄せがくるのではなく、男女ともに働きやすい環境を築いていくこと。それが、これからの企業に、社会に求められることではないでしょうか。

佐佐木由美子
人事労務コンサルタント・社会保険労務士。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所などに勤務。2005年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開業、その後グレース・パートナーズ株式会社を設立し代表に就任。人事労務・社会保険面から経営を支援し、親身なコンサルティングで多くのクライアントから支持を得ている。また、出産後も女性が働き続けられる雇用環境の整備をはじめ、女性の雇用問題に積極的に取り組んでいる。著書に「採用と雇用するときの労務管理と社会保険の手続きがまるごとわかる本」(ソーテック社)。新聞・雑誌などメディアで活躍。