
とはいえ、全社員が山本氏と同じレベルの知識やスキルを持つのは難しい。橋本氏は「データサイエンティストのように高度な技術を持つ人材が1000人必要か、というとそうではない」と指摘する。「データをどうビジネスに使うかを理解して使える人材がDX人材ならば、全社員がそうあるべきだ」
DXの知識レベルを可視化
そこで取り組み始めたのが、社員全体のDXリテラシーの向上だ。21年から始めた研修制度で、自分にDXの知識がどれだけあるかを知るためのアセスメント「ベネッセDXリテラシーチェック」を導入した。どの部門にどのレベルの社員が何人いるかを全社で把握し、DX人材の育成や採用、配属にも生かす。
リテラシーチェックは現時点の知識レベルを分野ごとに点数にして可視化する。特徴的なのは受講後の仕組みだ。その人のレベルや知識が少ない分野など、結果に合わせて適切な研修講座をレコメンドする。自分のレベルに合う学習から始めて知識を高める進研ゼミ流の学習を社員のリスキリングにも取り入れた。21年度はベネッセコーポレーションの社員など約3000人を対象に先行導入し、7割が受けた。今後は対象をグループの約1万1000人に広げる計画だ。
研修の内容にも工夫を凝らす。全社員向けの基礎研修の6割は内製化した。社員らが講師を務め、なるべく実務に沿う内容を心がけた。講師らは自身が取り組んだ仕事を事例にプログラムを構成する。
DXを学ぶにしても、何から取り組むべきかわからない人は多い。ベネッセコーポレーションの後藤礼子人財本部長は「なにが苦手で理解できていないか細かくチェックする仕組みが必要だ」と話す。
より専門的な知識を学びたい人には外部の研修サービスを薦める。ベネッセHDが国内の運営を担う米国発のオンライン教育サービス「Udemy(ユーデミー)」もその一つだ。ユーデミーは現在、国内で約800社超に導入されている。
一方、ベネッセ社内の研修ノウハウを、ユーデミーに生かす考えも生まれている。橋本専務執行役員は「現在はユーデミーのサービスだけを外販しているが、ベネッセのアセスメントも含めた研修の仕組みをセットで販売できないか検討している」と話す。
少子高齢化とデジタル化の波が急速に押し寄せるなか、ベネッセにとって社員の学び直しは、事業開発につながる表裏一体の関係となっている。
有給休暇や費用補助導入
全社員を対象にリスキリングに取り組むベネッセホールディングスだが、DX人材は机上での学習だけでは育ちにくいのが現状だ。そこで同社が取り組んでいるのが、DXに関わる仕事を経験してもらうための仕組み作りだ。公募でDX職種に就いてもらう制度がその1つだ。