「プレスリリースのマーケ活用」新常識 第6回

企業の広報活動で高い評価を得ているのが、スナック菓子メーカーのカルビーだ。ただ、以前は広報活動の要の一つであるプレスリリースによる情報発信の本来の目的には気付いていなかったという。その課題に気づき、方針を大きく変えるきっかけになったのは、意外にも2017年に起こった“ポテチショック”だった。何が起きたのか。

以前まで、プレスリリースづくりに関して“受け身”の姿勢だったカルビーの広報部。ある出来事をきっかけに、大きく変革を遂げつつある。その変化について、同社広報部の2人に直撃した
以前まで、プレスリリースづくりに関して“受け身”の姿勢だったカルビーの広報部。ある出来事をきっかけに、大きく変革を遂げつつある。その変化について、同社広報部の2人に直撃した

 経済広報センターが優れた企業広報を実践している企業などを表彰する企業広報賞において、2018年に「企業広報大賞」を受賞するなど、高い評価を得ているのがカルビーだ。だが、それ以前の活動には課題も多く、「重要な広報施策の一つであるプレスリリースづくりに関しては、活用があまり進んでいなかった」。カルビーコーポレートコミュニケーション本部広報部広報課の川瀬雅也課長はこう振り返る。

 「以前は、『ポテトチップス』『じゃがりこ』『かっぱえびせん』などのブランドのマーケティング担当者から広報に新商品の情報が届き、その情報を基にプレスリリースを書くのが基本的な流れ。打ち合わせも基本はなく、こちらから深掘りして聞くこともない、いわば“受け身”の状態で記者クラブに配信していた。当時はそれで役割を果たせていると思っていた」(川瀬氏)

 プレスリリースは、商品画像と発売日、商品の特長など最低限の内容にとどまり、情報量が少なく、受け取った記者が興味深く読み、記事を膨らませるような素材に乏しかった。しかし、ブランド力や知名度のおかげもあり、それでも一定の露出があるなど反応があった。「露出ゼロで無風だったら何かしら考えたと思う」と、川瀬氏は振り返る。

以前のカルビーのプレスリリース例。最低限の情報のみが書かれているとても簡素なものだった
以前のカルビーのプレスリリース例。最低限の情報のみが書かれているとても簡素なものだった

 だが、そんな広報部に転機が訪れる。それが、世間を揺るがせた“ポテチショック”だ。

 16年秋、北海道に3つもの台風が上陸し、じゃがいもの収穫に大打撃を与えた。そのため、翌17年4月、じゃがいもを原料とするポテトチップスの供給が難しくなり、カルビーをはじめとするメーカーは複数の商品を休売、もしくは終売せざるをえなくなった。結果、一部の人気商品が店頭から消える事態に至ったのだ。

 このポテチショックは、カルビー広報部のプレスリリースにも影響を及ぼした。じゃがいも不足で新商品が出せなくなり、新発売やリニューアルといった“ネタ”がなくなってしまったのだ。しかし、こうして一度立ち止まったことが、不十分だったプレスリリース施策の改革のきっかけとなった。

「中の人」に光を当て、開発秘話を盛り込む

 主力の一つ、ポテトチップスのプレスリリースが休止。広報部ではどう発信していくかを検討せざるを得なくなり、同時に考える時間もできた。「17年5月ごろから、北海道以外の府県産のじゃがいもが収穫されるため、そのうち休売商品や新商品の供給も再開できる。しかし、既にプレスリリースを打った後に発売延期になった商品を、再開後に単に『発売します』と同じ内容で出しても、露出につながらない可能性が高い。発信するには何か別の切り口が必要だった」(川瀬氏)。

 頼ったのが、マーケティングの担当者だ。広報部は、今まで一方通行で情報をもらっていたマーケティングの担当者と、双方の意見を交わしてニュースリリースについて本格的に考える場を設けたのだ。

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