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新型コロナウイルス感染症の流行を契機に、自転車通勤に対する関心が高まっています。人混みを避けることで感染を防ぐとともに、自転車の活用による二酸化炭素(CO2)削減は、近年注目されているSDGs(持続可能な開発目標)にも合致。適度な運動は、心身の健康増進にもつながります。会社までとはいかないまでも、最寄り駅まで自転車を利用している方は案外多いのではないでしょうか。そこで自転車通勤にまつわる問題点について考えてみます。

会社ごとにスタンスの異なる自転車通勤

自転車といえば、これまでシティーサイクル(通称ママチャリ)が中心でしたが、近年ではクロスバイクやロードバイクといった「スポーツバイク」や「電動アシスト自転車」が増加するなど、利用される自転車の車種が多様化。今まで以上に快適に長距離を走ることができ、自転車利用の可能性が広がっています。

コロナ禍以前からIT(情報技術)企業が集う米シリコンバレーでは環境意識の高まりもあり通勤での自転車利用が広がっていました。国内でもグーグル日本法人や日本マイクロソフト、Zホールディングス傘下のヤフーやLINEといったIT企業を中心に自転車通勤推奨の動きが見られます。自転車通勤は、通勤時間の短縮になる場合もあり、働く人たちにとっても健康面においてメリットがあると言われています。企業側においても生産性の向上や、環境にやさしい・健康的といった企業イメージアップに貢献しています。

実際、自転車通勤による労働生産性の変化を調べた調査では、自転車通勤によって仕事の作業などの身体的な活動だけでなく、時間管理力や集中力が向上し、労働生産性がアップすることが明らかとなっています(国土交通省が事務局の自転車活用推進官民連携協議会が2019年5月に出した「自転車通勤に関する手引き」より)。

一方、自転車事故のリスクを含めた安全面の問題や会社近隣の駐輪場確保が難しいことなどから、自転車通勤を認めない企業も少なくありません。

コロナ禍を契機に自転車通勤に関心が高まったことで、自転車通勤を規制・禁止する動きもあれば、自転車通勤における安全基準などルールを明確化して運用する動きもあります。スタンスは企業ごとに様々です。

自転車保険の加入を義務化する自治体が増加

公共交通機関の利用と違って懸念されるのは、通勤途中における事故リスクです。自転車による重大事故で高額な賠償金を請求されるケースは後を絶たず、近年は自転車に乗る場合に自転車保険(自転車の利用によって生じた損害を賠償する保険・共済など)への加入を義務付けている自治体が増えています。

自転車通勤には事故のリスクがつきもの(写真はイメージ=PIXTA)

自転車通勤には事故のリスクがつきもの(写真はイメージ=PIXTA)

通勤時に従業員が他人を死傷させた場合や他人の物を壊した場合に発生する対人・対物賠償責任は、従業員自身が負います。そのため、従業員自身が自転車損害賠償責任保険などに加入します。ただし、事業活動中の事故であると認められた場合などにおいて、事業者の使用者責任が問われることがあります。例えば、休日に会社から呼び出しを受けて出勤する場合などの移動は業務とみなされます。様々なリスクに備え、労使とも賠償額が1億円以上の自転車損害賠償責任保険などに加入することが望ましいと言えるでしょう。

従業員が負傷した場合、通勤災害と認められれば労災保険が適用され、治療費や休業した場合の補償は労災保険でカバーされます。しかし、通勤災害と認められなければ、健康保険が適用され、医療費の一部は従業員の自己負担となります。こうしたときに備えて、従業員自身が入院・通院などを補償する傷害保険に加入しておくと安心でしょう。会社が福利厚生制度として、従業員の通院などについて保険に加入しているケースもあります。

損害賠償と傷害保険がセットの自転車保険や、傷害保険の特約などに自転車利用中の賠償責任を補償するものなど、様々な種類があります。

それでは、どのような場合に通勤災害と認められるのでしょうか。

「通勤災害」はどのようなケースで認定される?

通勤災害は、労災保険法で「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」をいうものと定義されています。通勤とは、労働者が就業に関し、以下の(1)~(3)のいずれかの移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を含むものは除かれます。

(1)住居と就業の場所との間の往復

(2)就業の場所から他の就業の場所への移動

(3)単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動

自宅から勤務先への往復はもとより、1日に複数の勤務先で働く場合や単身赴任者が家族のいる居住地と往復する場合も含まれるということです。

しかし、通勤の途中で経路を逸脱したり、中断したりした場合、それ以降は原則として「通勤」とは認められません。

ただし、例外もあります。それは、逸脱や中断が日常生活上必要な行為のうち、厚生労働省令で定めるやむを得ない事由により行う最小限のものである場合です(下記)。逸脱・中断の間を除き、その後の往復は通勤となります。

【逸脱・中断の例外となる日常生活上必要な行為とは?】
(1)日用品の購入その他これに準ずる行為
(2)職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他こ れらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発に資するものを受ける行為
(3)選挙権の行使その他これに準ずる行為
(4)病院または診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
(5)要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的にまたは反復して行われるものに限る)

例えば、仕事帰りに歯科クリニックに立ち寄るような場合、クリニックへ行く途中と治療している間は対象となりませんが、治療を終えていつもの経路に戻って歩いているときに転倒した場合は通勤災害になり得ます。

では、最寄り駅から自転車に乗って保育園に子どもを迎えに行く途中に転倒してケガをした場合はどうなるでしょうか。保育園に行くルートが、自宅にまっすぐ戻るよりも遠回りとなってしまうことは珍しくありません。

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