女性活躍推進法による雇用環境の整備は限定的
女性の活躍については、単純に管理職の割合だけで測れるものではありませんが、ひとつの指標として見てみましょう。20年に発表した厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、管理職に占める女性の割合(企業規模10人以上)は、部長相当職では8.4%(19年度6.9%)、課長相当職では10.8%(同10.9%)、係長相当職では18.7%(同17.1%)と役員を除く各管理職での数値は微増しているものの、女性活躍推進法の施行後において目覚ましい進歩があるとは言えません。
女性の管理職がなかなか増えない要因として、日本企業では管理職が年功的な処遇による場合が多いことがひとつ考えられます。遡れば1997年、改正男女雇用機会均等法の成立によって、募集・採用、配置・昇進などの女性差別が努力義務から禁止になりました(施行は99年)。その頃から女性の総合職採用が進んだことを考えると、まさにこれから女性管理職が増えていくタイミングと言えるかもしれません。
世界経済フォーラムが毎年発表している「ジェンダー・ギャップ指数」の21年版においても、日本は156カ国中120位(前回は153カ国中121位)と、先進国の中で最低レベルの状況を脱することができないままです。
一方、柔軟な働き方の広がりに関して言えば、行動計画に基づく雇用環境の整備というよりも、新型コロナウイルスによる感染対策としてテレワークの導入などが進んだ背景がうかがえます。
企業によっては行動計画のハードルを下げる懸念も
行動計画の内容は、男女雇用機会均等法に違反しない内容にする必要があります。募集・採用・配置・昇進などにおいて、女性労働者を男性労働者に比べて優先的に取り扱う取り組みについては、雇用管理区分ごとにみて女性が4割を下回っている場合など、一定の場合以外は法違反として禁止されています。
たとえば、「女性労働者を増やすために、女性を○名採用する」という目標は、募集しようとしている雇用管理区分において、すでに労働者に占める女性労働者の割合が4割を超えている場合は均等法違反になります。一方、募集しようとしている雇用管理区分において、女性労働者の割合が4割を下回っている場合はポジティブ・アクションの措置として均等法に違反しません。同じ目標でも、法違反の可能性は自社の状況により異なります。
こうした法律上のルールはあるものの、行動計画において必ず盛り込むべき数値目標の設定に関しては、最低限目指すべき基準は明確に示されていません。
そうなると、あえてハードルを課して高い目標を設定するまでもないと考える企業も出てくる懸念があります。形としては行動計画を策定・届け出をし、情報公表は行うものの、消極的な対応に終始すれば、女性活躍推進法で期待される行動計画の効果が期待できません。
22年4月から義務化される101人以上300人以下の企業においては、さらに人材リソースが限られた中で取り組みを行うことになるため、本気で行わなければ、負担が増えるばかりで形骸化するおそれがあります。
「えるぼし認定」制度で企業の取り組みは変わるのか
国としても、女性の活躍推進に関する取り組みの実施状況が優良であるなど一定の要件を満たした企業に「えるぼし認定」制度を設け、さらに実施状況が優れたえるぼし認定企業に「プラチナえるぼし認定」を設けるなどして、行動計画策定に対して動機付けを高めようとしています。
えるぼし認定企業は、21年10月末時点で全国に1516社あります。認定を受けた企業は、商品や広告などに認定マークを付することができたり、公共調達の加点を受けられたりするなどのメリットが受けられます。しかし、企業が積極的な取り組みを誘発するまでに至っていません。
女性活躍推進法に基づく法令順守は必要なものですが、形だけでなく誠実に取り組むことで、柔軟で多様な働き方が広がり、優秀な人材の採用・定着にもつながります。
22年4月から対象企業が拡大されるこの機会に、経営者やマネジメント層が改めて女性活躍推進の重要性を認識し、積極的な行動計画の策定に取り組んでもらえることを切に願います。
