ひらめきブックレビュー

社会のために大きな価値生む 善意を無駄にしない選択 『BETTER, NOT PERFECT すこしでも確実に社会に役立つ選択をする』

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

プラスチックゴミを減らそうと、買い物にマイバッグを持参する。あるいは、自然災害の被災地に寄付をする。社会が少しでもよくなるよう、利他的な行動を心がける人は少なくない。

しかし、その「善意」は本当に社会をよりよくする役に立っているのだろうか。あるいは、同じ額の寄付ならもっと効率的な寄付先はないか。環境問題、経済格差など世界が課題であふれている昨今、私たちには善意を社会の「価値」へ変える際、より効率的な方法を選ぶことが求められている。

本書『BETTER, NOT PERFECT すこしでも確実に社会に役立つ選択をする』(池村千秋訳)は、タイトルの通り、少しでも社会の役に立つ選択をするために、具体的にどんな判断をし、いかに行動すべきかを説く書だ。著者のマックス・H・ベイザーマン氏は、ハーバード・ビジネススクール教授で行動心理学の権威である。

■「顔の見える犠牲者効果」とは

著者は、地球上のすべての生き物のために、できるだけ多くの価値を生み出して最大の善を実現することが「倫理的」な行動だと考える。本書でいう「倫理」の定義は、その意味で「功利主義者」の考えに近いという。

有名なトロッコ問題でいえば、暴走するトロッコを放置して5人が犠牲になるより、1人が犠牲になる支線へと導くほうがより倫理的と考える。賛否は分かれるだろうが、世界が直面する問題はトロッコ問題よりもっと複雑だ。「完璧な答え」は存在しない中で、よりよい状態を目指す基準の1つとして、功利主義は有効だろう。

そのうえで本書は、私たちが「より倫理的」に行動することを妨げる要因を挙げる。たとえ「善意を最大化したい」と思っていても、場合によって私たちは、簡単に判断を誤る。例えば「顔の見える犠牲者効果」だ。「ある国で300万人が飢餓に苦しんでいる」と訴えるより、「あなたの寄付でこの女の子に食料を提供できる」として女の子の写真を提示するほうが、寄付を申し出る人が増える傾向があるという。

訴え方の違いは、その団体が現地に寄付をどれだけ効率的に還元しているかとは関係がない。つまり、感情に惑わされず、客観的な条件から寄付先を選ぶことが、より倫理的な行動につながることがわかる。

■「完璧」より「少しでも」

自分と同じ大学の出身者に肩入れするといった「身内びいき」、味には関係ないのに形の悪い野菜を廃棄するといった「無駄」、さらに、誰かを助けるために費やす「時間」の使い方まで、本書は多くのバイアス(無意識の偏見)を指摘し、より倫理的な行動をとる方法を示す。

もっとも、身内びいきがバイアスだからといって、肉親と他人を並列に見ることは難しい。動物に対する倫理的な行動が推奨されていても、誰もがヴィーガン(完全菜食主義者)になれるわけではない。完璧な社会が実現不可能なように、私たちの倫理的な行動にも完璧はない。それでも、少しでも善意を有効に使い、社会をポジティブな方向に変えていくためになすべきことを本書は教えてくれる。

今回の評者 = 前田 真織
2020年から情報工場エディター。08年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。