新井院長が40代にまず取り組んでほしいとするのは生活習慣の見直し。「運動や食生活の改善は生活習慣病の予防改善など体と心の健康維持にもつながる」からだ。認知トレーニングに関しては「日々の仕事の中で判断や決断に頭を使っていれば特別なトレーニングは不要」と助言する。
生活習慣の中で特に重要なのが睡眠だ。前述のアミロイドβは睡眠中に脳内から排出されるからだ。「睡眠時間が十分でないと蓄積が進んで、認知症リスクが高まる」(新井院長)。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針」(14年)では、睡眠時間の目安は45歳では6・5時間、65歳では6時間とされている。
日々の食生活でもリスク低減はできる。国立長寿医療研究センターもの忘れセンターの佐治直樹副センター長らは、脳と腸が免疫細胞や神経回路を介してお互いに密接に影響を及ぼしあう「脳腸相関」の観点から、腸内細菌と認知症の関係について研究している。19年に認知症の有無で腸内細菌のタイプが異なるという研究結果を得た。
21年秋には日本食と腸内細菌、認知症との関係についての研究論文を発表。魚介類、きのこ、大豆、コーヒーなどを含む「現代的な日本食」を多く摂取する人に認知症が少ないというデータを得られた。青魚に多く含まれるDHAや大豆に含まれるイソフラボン、特定のビフィズス菌が認知症リスクを軽減するという研究結果もある。
一方で認知症治療薬の研究開発が世界中で進んでおり「もはや認知症を恐れる時代ではなく迎え撃つ時代」と新井院長は語る。健やかなシニアライフのために、まずはきょうからでも生活習慣の見直しを実行したい。
(ライター 大谷 新)
[NIKKEI プラス1 2022年9月3日付]