この数年で、シニア世代がデジタルネーティブ世代に引けを取らないくらい、デジタルメディアを活用していることをご存じだろうか。シニア世代は、当たり前のようにスマートフォンを契約し、SNSで情報交換をし、ECでの購入を楽しんでいる。デジタル世界が生活の中に当たり前に溶け込む中で、シニア世代は何を思い、購買行動を取っているのか。会員数約35万人、月間約3000万PVを誇る国内最大級の中高年・シニア向けコミュニティーサービス「趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)」を運営し、シニアDX(デジタルトランスフォーメーション)事業を展開するオースタンス(東京・新宿)が、シニア向けのデジタルマーケティングを実施するうえでの5つの重要インサイトと事例を紹介する。

人生のライフステージは長寿化によってマルチステージ化しており、高齢者でも新たな挑戦や学び直しに取り組める(出所/オースタンス)
人生のライフステージは長寿化によってマルチステージ化しており、高齢者でも新たな挑戦や学び直しに取り組める(出所/オースタンス)

人生100年時代・デジタル化に影響を受ける令和のシニア世代

 オースタンスでは、シニア世代を「中高年~シニア世代」として捉えており、50~70代がそこに該当すると考えている。ではこの令和の時代を生きるシニア世代は、10~20年前のシニア世代と同じような価値観を持っているのだろうか? 答えはNoである。それはなぜか。価値観の変化の要因となるメガトレンドは、大きく分けて2つである。

 1つ目は人生100年時代の到来だ。アンドリュー・スコット氏とリンダ・グラットン氏の著書である『LIFE SHIFT(ライフシフト)』にもある通り、これまでは3ステージ制であったライフステージが、長寿化によってマルチステージ化していく。この変化は、50~60歳を超えたら引退するという従来の行動に変化を生み、50~60歳を超えても再び何かに挑戦したり学び直しをしたりすることが、令和を生きるシニア世代にとっては当たり前になっている。

 2つ目は世界で進むデジタル化である。この影響を受けているのは、デジタルネーティブのZ世代だけではない。実際に総務省の調査「高齢者のインターネット利用率(情報通信研究機構[NICT])」では、60~69歳でインターネットを利用している割合は82.7%と8割を超えている。国民全体の利用率が83.4%なので、全体平均と大差ない利用率である。このインターネットの高い利用率の背景にあるデジタルデバイスの普及も、1つ目に伸びた積極的な学び直し・挑戦行動の結果なのかもしれない。

▼関連リンク 高齢者のインターネット利用率(情報通信研究機構[NICT])

 この2つのメガトレンドによって、10~20年前のシニア世代とは行動原理が異なり、その結果、現代特有の価値観が生まれているのが、この令和を生きるシニア世代である。

 では、令和を生きるシニア世代はどのようなインサイトを持っているのか。メガトレンドの変化に加えて、年齢と経験を重ねて生まれた特有のインサイトの中でも、今回はシニア向けにデジタルマーケティングを実行するうえで、基本的に考慮しておく必要のある特に代表的なインサイトを5つ紹介する。

シニア世代向けWebマーケ担当者が知っておくべきインサイト5選

インサイト1:積極的失敗回避欲求

 年を重ねることで強まっていくインサイトとして、「積極的失敗回避欲求」があるだろう。ここではシニア世代の特徴である「過去の体験を重視する思考」が重要になってくる。令和を生きるシニアは、これまで生活を送ってきた中で、購買行動においてさまざまな成功と失敗を体験している。そしてほとんどのシニアが、成功よりも失敗体験のほうを多く経験している。その結果として、自分のこれまでの失敗経験を基に購買判断基準を考えることが多いのだ。そのため、過去の失敗経験と比較して、「失敗するかもしれない」という不安を抱かせないUX(ユーザーエクスペリエンス)をつくることに力を注ぐべきだ。具体的には、購入前の詳細な説明や、実際に体験するなどのUXをWebサイトで実現することが重要になる。

過去の失敗経験を基に判断してしまうシニア世代が多い(出所/オースタンス)
過去の失敗経験を基に判断してしまうシニア世代が多い(出所/オースタンス)

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