「スターバックスキャンパスリングノート」が、2019年の発売以来、好調をキープしている。これは、スターバックス コーヒー ジャパン(東京・品川)と、オフィス家具や文房具の製造販売を手がけるコクヨのロングセラー「キャンパスノート」のコラボアイテムだ。

 ノートの表紙と裏表紙に、全国のスターバックスの店舗から回収した使用済みミルクパックを原料として作った板紙を使用したサステナブルな製品で、開発や製造をコクヨが担い、表紙や中紙のデザインなどをスターバックスが手がけた。定番カラーの「ホワイト」をはじめ、クリスマス用の「ホリデー」や「さくら」といった季節ごとの限定商品を、2022年3月までに27アイテムを販売。店頭に並ぶとすぐに売り切れるほどの人気ぶりだという。

スターバックスから回収した使用済みミルクパックを原料として造られた板紙を使用したサステナブルなノート
スターバックスから回収した使用済みミルクパックが原料の板紙を使用したサステナブルなノート

 これまでスターバックスは、環境配慮型店舗の国際認証「Greener Stores Framework」 を取得した「グリーナーストア」の展開や、不用タンブラーを回収・リサイクルした商品「リサイクルコースター」、コーヒー豆用のエコバッグ「リユーザブルコーヒービーンバッグ」といった、さまざまなサステナブルな取り組みや商品を手がけてきた。

 一方、コクヨも2006年10月に「四万十・結の森プロジェクト」を始動。20年に、公益社団法人環境生活文化機構主催の「持続可能な社会づくり活動表彰」において「会長賞」を受賞した。森林の循環に貢献する木製家具ブランド「yuimori(ユイモリ)」や、アップサイクル素材を用いた文具ブランド「KOKUYO ME」なども手がけている。

原料となるのは、店舗で使い終わったミルクパック。空になったものを、丁寧に洗って、たたんでいく。スターバックスでは10年以上前にミルクパックのリサイクルをスタートし、現在では全店舗のミルクパックをリサイクルしているという。年間約1,000トンのうち、一部がキャンパスノートに使われる
原料となるのは、店舗で使い終わったミルクパック。空になったものを、丁寧に洗って、たたんでいく。スターバックスでは10年以上前にミルクパックのリサイクルをスタートし、現在では全店舗のミルクパックをリサイクルしているという。年間約1000トンのうち、一部がキャンパスリングノートに使われる

 今回のコラボは、スターバックスからのオファーをきっかけに、実現に向け動き出したもの。サステナブルや環境配慮型製品を手がけてきた2社の協業で、「スターバックスキャンパスリングノート」という製品が生まれた背景を、双方の開発担当者から聞いた。

 「スターバックスでは、全国の各店舗で1日平均70もの使用済みミルクパックが出ます。かつてはそれを廃棄していましたが、10年頃からリサイクルを推進し、市販のトイレットペーパーなどに再生してきました。15年からは、ミルクパックをリサイクルしたペーパーナプキンを店舗で使うなど、自社内で循環できる仕組みを模索してきました。よりお客様に分かりやすい形で、いいアイテムを届けたいと思案するなかで、当社の商品開発担当者がコクヨさんと話し合いを重ね、ノートの実現にこぎつけました」(スターバックスのサプライチェーン本部サステナビリティ&資材購買部エシカルソーシング・サステナビリティチーム普川玲氏)

スターバックス・サプライチェーン本部サステナビリティ&資材購買部エシカルソーシング・サステナビリティチーム普川玲氏
スターバックスのサプライチェーン本部サステナビリティ&資材購買部エシカルソーシング・サステナビリティチーム普川玲氏

 コクヨはこれまでもさまざまな企業の求めに応じ、ロゴやキャラクター入りの製品を手がけてきた。再生紙を用いたキャンパスノートも既にある。しかし、今回のコラボは、これまでと一線を画す難しい取り組みだった、とコクヨのステーショナリー事業本部文具本部文具開発部部長の衣川忍氏は言う。

 「表紙に再生紙を使用したキャンパスノートに企業のロゴやキャラクターを載せて作ることはありましたが、環境を目的にミルクパックを再生した紙を一から作ることは初めて。ミルクパックをリサイクルしたものが、商品として価値のある紙になるかは未知数で、実際に作ってみなければ分かりませんでした。ノートの表紙として合格点を取れる品質か、反り具合はどうか、工場で実際に取り組めるのかなど、さまざまな試験を重ねました。通常、再生紙はいろいろなところから集められたものを元に作りますが、今回はほぼスターバックスさんの店舗で出たミルクパックのみ。製紙のロットとしては小規模のため、テストが頻繁にできないことも困難に拍車をかけましたね」(衣川氏)

 当初コクヨ側は、品質を担保しやすいなどの理由からミルクパックを一部使用した製品を提案した。しかし、スターバックスはミルクパックのみを主原料とすることにこだわった。そのため、用紙の開発に時間を要したという。

 ただ、スターバックスからの要望をネガティブに捉えたわけではない。むしろ、サステナブルな取り組みに熱心な姿勢は、コクヨにとって製品づくりへの大きな気づきとなったと衣川氏は振り返る。

 「ミルクパックを主原料に、限りなく100%に近い形で紙を作ってほしいとお話をいただいたときは、正直、かなりのチャレンジだなと思いました。と同時に、『さすが循環型の企業だな、配慮が行き届いている』と感心しました。そこへの強いこだわりは気づきになりましたし、高いハードルを踏み越えて挑戦するきっかけにもなりました」(衣川氏)

コクヨ・ステーショナリー事業本部文具本部文具開発部部長の衣川忍氏(写真/大谷真幸)
コクヨ ステーショナリー事業本部文具本部文具開発部部長の衣川忍氏(写真/大谷真幸)

 一方、スターバックスは、来店した顧客が思わず手に取りたくなるような魅力的なデザインや、実際に店頭で利用する際の使い心地のよさを追求した。

 「今回我々が、コーヒーにまつわる製品としてノートを選んだのは、来店してくださったお客様がノートを使って、勉強や仕事ができる、つまり、お客様に寄り添えるアイテムだと思ったからです。環境にやさしいことはもちろんですが、それ以上にお客様に『かわいい』『すてき』と思っていただけるデザインかどうかは、かなりこだわりました。使い心地も重要なため、小スペースでも使いやすいリングノートにし、中身をケイ線ではなく方眼タイプにすることで、勉強からビジネスまで幅広く活用いただけるのではないかと考えました」(普川氏)

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