2021/10/9

この他にも、セクハラは企業の社会的評価を毀損し、他企業との取引や一般消費者への販売にも支障をきたしうる。ESG(環境・社会・企業統治)投資を行う機関投資家はセクハラをガバナンス上の大きなリスクとみなすため、株価にも影響を及ぼすだろう。

セクハラを防ぐには、意識改革だけでは不十分だ。セクハラ禁止規定を定めるとともに、報復を恐れずに被害報告できる仕組みを整備しなければならない[注5]。こうした取り組みを実効性あるものにするためには法制度の後ろ盾が必要だ。しかし、日本は先進国で唯一セクハラ行為自体を禁止する法律がない[注6]

職場からセクハラを追放し、人々が安心して働ける環境を築くことは、企業と日本経済の成長にとって不可欠だ。早急な法整備が求められる。

※出典[注1]Laband DN., Lentz BF. The Effects of Sexual Harassment on Job Satisfaction , Earnings , and Turnover among Female Lawyers. Ind Labor Relations Rev. 1998;51(4):594-607.
[注2]Faley RH, Knapp DE, Kustis GA, Dubois CLZ. Estimating the organizational costs of sexual harassment: The case of the U.S. Army. J Bus Psychol. 1999;13(4):461-484. doi:10.1023/a:1022987119277
[注3]Willness CR, Steel P, Lee K. A meta-analysis of the antecedents and consequences of workplace sexual harassment. Pers Psychol. 2007;60(1):127-162. doi:10.1111/j.1744-6570.2007.00067.x
[注4]Raver JL, Gelfand MJ. Beyond the individual victim: Linking sexual harassment, team processes, and team performance. Acad Manag J. 2005;48(3):387-400. doi:10.5465/AMJ.2005.17407904
[注5]Hersch J. Sexual harassment in the workplace. IZA World Labor. 2015;25(09):13-13. doi:10.15185/izawol.188
[注6]角田由紀子, 伊藤和子. 脱セクシュアル・ハラスメント宣言. かもがわ出版; 2021.
山口慎太郎
 東京大学経済学研究科教授。内閣府・男女共同参画会議議員も務める。慶応義塾大学商学部卒、米ウィスコンシン大学経済学博士号(PhD)取得。カナダ・マクマスター大学准教授などを経て、2019年より現職。専門は労働市場を分析する「労働経済学」と、結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」。著書『「家族の幸せ」の経済学』で第41回サントリー学芸賞受賞。近著に『子育て支援の経済学』

[日本経済新聞朝刊2021年10月4日付]