岸田新総裁に望む 子育て予算「他の先進国並みに」
岸田文雄氏が自民党総裁に就任した。9月に行われた総裁選は初めて女性が複数立候補し、公開討論会では子育て支援や新型コロナウイルス禍の女性の孤立などもテーマとなった。選択的夫婦別姓も候補者の考えが問われた。これらの課題に対する岸田氏の政策について、識者は具体性や世論を見据えた行動を求める。
孤立を連帯につなぐ仕組み期待 恵泉女学園大学学長・大日向雅美氏
「コロナ禍が新たに生み出した問題は実は少なくて、もともと水面下にあった問題が見えるようになったのだと考えている。子育ての負担が共働きか、専業主婦かにかかわらず女性に偏る問題が根底にある。20年春の一斉休校、登園自粛やテレワーク推進などを通じて家庭に閉じこもり、孤立を深めた女性は多い。シングルマザーの苦しさなども可視化された」
「経済的支援はもちろん大切。連携の仕組みの具体策が必要だ。コロナ下で心強かったのは、地域のNPO法人や自助グループなどがマグマのように動いたことだ。私も東京で子育て支援施設の運営に携わっている。コロナ下でも感染対策を施しながら子どもの一時預かりなどを実施している。各地でオンラインなども活用して生身の支援を届け、孤立を連帯につなげるような取り組みが広がった」
「新総裁にはこうした地域の資源を生かした仕組みづくりを期待したい。子育ての大変さに気付いた男性もいるが、変わらず非協力的な男性が多いのも事実だ。男性の意識をいかに根本から変えるかも課題だ」
「女性政策に対する姿勢など、タイプが全く違う高市早苗氏と野田聖子氏の主張を聞けたのは社会にとって大きな収穫だったのではないか。女性を『女』とひとくくりにするのではなく、『個』で見ることが大事だと気付かされたはずだ」
選択的夫婦別姓の議論 前進求める 早稲田大学教授・棚村政行氏
「本来は賛成派だったと思うが、総裁選では立場を曖昧にした。選択的夫婦別姓が政策論争になったのは進歩だ。だが(岸田氏が自分の特技とする)『人の話をしっかりと聞く』結果として、党内の反対派や保守派に配慮するあまり、LGBT(性的少数者)理解増進法のように議論が先送りになるのは心配だ」
「今回、変化を期待した党員票は河野太郎氏に集まり、岸田氏は派閥の力で国会議員から支持を集めた。立場が強い議員が別姓に反対しても、議論を前に進められるか。岸田氏は党役員の任期などを示した党改革案を進めようとしている。自民党は変わったということを示すためにも、世論の声を聞いて選択的夫婦別姓の実現に動いてほしい」
「自らが別姓を選ぶかはともかく、他人が選択できるこを許容する意見は増えている。女性は20~50代まで全年代で『反対』が10%未満と低かった。別姓を選べず結婚を諦めたり事実婚をしたりするカップルもおり、男性にとっても大きな問題だ」
「同姓を選んでも通称を使えば仕事等への支障は少なくなるという意見もあるが、選択的夫婦別姓は単に個人や夫婦間の話ではない。法律で同姓を義務付けているのは先進国では日本だけだ。諸外国でも別姓が子どもにとって大きな問題となったことはない。男女平等や多様性を尊重する社会を実現し、それを世界に示すための試金石になる」
子育て促す空気づくりを みらい子育て全国ネットワーク代表・天野妙氏
「子育て支援の充実を行政や政治に訴える市民団体の代表を務め、生の声を集めている。住居費は都市部では大きな割合を占めるので支援があればありがたいが、財源には限りがあるだろう。もう少し優先度の高い政策があるのでは。私たちの団体が子育て世代に聞いた調査では、費用負担が最も重いと感じているのは大学・専門学校で78%。高等教育部分に焦点をあてた政策の効果が高いと考えている」
「子どもを望む人が望む数の子どもを持てるよう、社会の空気を一新する必要がある。『子どもを持つことはお得』『子育てはそこまで大変じゃない』というところまで認識が変わらないと、子どもを多く持とうとはならない。岸田氏には重層的な多子世帯支援などを通じ、子育てのイメージをがらっと変える大胆な政策を期待したい」
「子育て支援を強化するため、ほかの先進国並みに予算を引き上げるのは必須だ。こども庁創設と同時に取り組んでほしい政策は山のようにある。男性の家庭進出に向けては、育児休業などを理由に男性に嫌がらせをするパタニティーハラスメントへの対策が必要。児童虐待や子どもの性被害をなくすには、大人も対象に人権や性について教育することが欠かせない」
女性活躍エディター 天野由輝子、砂山絵理子が担当しました。
[日本経済新聞朝刊2021年10月4日付]
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