慢性炎症のもう一つの主要原因は老化細胞だ。細胞は一定の分裂を繰り返すと分裂を停止する。通常はここで細胞死が起こり体内から消えるのだが、死なずに臓器や組織にたまっていくものがある。これを老化細胞と呼ぶ。
慶応義塾大学医学部百寿総合研究センターの新井康通センター長は「蓄積した老化細胞から様々な炎症性物質が産生されるSASP(サスプ=細胞老化関連分泌)という現象が起こることが、動物実験で分かってきた」と話す。
SASPは慢性炎症を誘発し、周囲の臓器や組織にも炎症状態を広げ、正常な細胞を老化させていく。「老化細胞が増えると、老化が進み、筋力が低下するサルコペニアのような加齢性の病気になりやすい」と新井センター長。
100歳以上の「百寿者」を調べると、年齢の割に慢性炎症の程度が低い人が多いという。「慢性炎症をなるべく抑えることが健康長寿の秘訣」(新井センター長)といえる。
慢性炎症は症状がないまま進行するのが厄介だ。診断が難しく特効薬もない。小川教授は「何らかの病気となって表れたら、他の臓器に炎症が広がらないよう早期治療を。何よりも病気が発症しないよう、慢性炎症を予防する生活習慣が大切」だと訴える。
暴飲暴食を避け、栄養バランスのよい食事をする。運動する。十分な睡眠をとる。喫煙しない。ストレスをためない。オーソドックスだが、ぜひこれらを心がけてほしい。
(ライター 松田 亜希子)
[NIKKEI プラス1 2022年7月30日付]