(2)「お金」を過大評価しない
脱成長というと、収入が下がり、収入面での不安を想起する人がいるかもしれません。言うまでもなく、お金は大切です。ただ、必要以上にお金を過大評価してはいないでしょうか。
そんなときは、少し冷静になってお金よりも大切なものを書き出し、価値の配分が何パーセントになるか考えてみてください。アセット・アロケーション(資産配分)のように円グラフにして「見える化」してみると、自分にとってのお金の価値を認識しやすくなります。家族や健康など、当たり前にあることに改めて感謝できたり、大切にしようと思えたりします。

(3)居住地を変えてみる
新型コロナウイルスの感染拡大によるリモートワークの普及とともに、「地方移住」や「2拠点生活(デュアルライフ)」「多拠点生活」など、「どこに住むか」が自由化されてきています。
僕自身はフィジーに移住し、のんびりしたフィジー人たちと寝食を共にすることで、大阪でサラリーマンをしていたときの時間に追われる感覚や、成長圧力というストレスから解き放たれました。ただ、ずっとフィジーにいると、のんびりした時間の流れから次の行動を起こすことが難しく、それはそれで「このままでいいのだろうか」という不安にも襲われるようになりました。
そこでフィジーと日本を行き来するデュアルライフを開始し、緩急のバランスを取るようになりました。新型コロナウイルスの流行がなければ、デンマークでも暮らし、さらなる価値観の変化を感じていたでしょう。日本人はせっかち、フィジー人はのんびり、デンマーク人はその中間くらいという生活スピードです。その違いを味わうのも楽しいものです。
日本では特に都市圏で仕事に励んでいると、知らず知らずのうちに「成長必須モード」になり、時間に追われる生活が当たり前になりがちです。住む場所を変えると、その土地で出会う人も必然的に変わり、価値観のマンネリ化を脱する機会に恵まれます。
「脱成長」の秘訣は「緩急」にあり
別に成長しなくてもいい。
そう考えると、心や時間にゆとりが生まれてきます。その心の余裕を原資に新しいチャレンジをしていけば、結果として飛躍的に成長できることもあるでしょう。
ただ、そうはいっても「成長しないことが怖い」という人が、脱成長にかじを切るためのキーワードは、先ほども例に挙げた「緩急」だと思います。
緩急といった「変化」をつくるためには、いったん、立ち止まってみること(ブレーク)が有効です。逆に、ブレーク(休止)すれば変化できるともいえます。
言葉遊びのようですが、「一」度「止」まると書いて「正」しいと読みます。自分にとっての「正」解に近づくためには「止」まることが妙手です。まさに急がば回れ、です。
先行き不透明で見通しが立てにくいVUCA(ブーカ=変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)時代、日々、世界の変化は加速していきます。
そんな世界を生き抜くには、自らも新しく生まれ変わり変化すること、そして変化を起こしてくれるブレーク(休止)が鍵を握ります。
今、日本人には立ち止まる勇気が必要なのではないでしょうか。

(文 永崎裕麻)
[日経xwoman 2021年9月1日付の掲載記事を基に再構成]