イオン女子がやって来た 大学生、モールで満足
5~6店回って念入りに比較
「月に2~3回、友達と来ます。滞在時間は2時間以上。原宿や渋谷にも行くけど、3カ月に1回くらい。ゆったりしていてよーく見れるのでココが好き」と浦和大学1年の伊藤詩織さん。5月下旬の平日の午後4時。「ココ」とは埼玉県越谷市のイオンレイクタウンのことだ。
首都圏の女子大生の居場所が変わっている。渋谷109やマルイ、ラフォーレ原宿では今、その姿を見ることは少ない。
渋谷109は、10代後半から20代前半をターゲットとしているが「来館者の7割は中高生」。ファッション感度の高い女性を集客するラフォーレ原宿では「顧客の5割は24~35歳」で、この数年、価格帯の高いテナント構成にしていることから30代が増えている。なかには「もう女子大生はあてにしていない。最も取りにくい世代だから」とみる施設もある。
変わっての「聖地」はイオンが国内外に約140件展開する、大規模ショッピングセンター、イオンモール。レイクタウンはその一つだ。なぜ支持されるのか。
「気に入った洋服があっても5~6店は回る。全部見ないと気が済まないので即買いはしません」(つくば国際大学4年の篠原麻耶さん)
女子大生の消費行動の変化としてまず挙がるのが、購入前の念入りな比較だ。衝動買いはほとんどしない。インターネットでの情報収集のみならず、似た商品を扱う数店を回り、自分にとってのベストを探し出す。
「ブランド」「背伸び」とは無縁
「10年前と違うのは3回来店してもまだ悩む。勢いで買うことはなく大変慎重」。オンワード樫山がSCで展開する20代向け「フェルゥ」の長島貴子マーチャンダイザーもこう証言する。化粧品も同様で「口コミを見るか、試供品を取り寄せるのが前提。必ず確かめてから購入する」(コーセーの外尾秀人執行役員)。納得するまでお試しを繰り返す行動は「主婦並み」(大手日用品メーカー幹部)だ。
となると、都合がいいのは、1カ所で何店も見て回れる環境。店舗数は多ければ多いほどいい。レイクタウンには20代に人気の「ローリーズファーム」「ネ・ネット」「ANAP」などアパレルだけで約200店が集まる。その数は渋谷109のほぼ2倍にもなる。
「渋谷系ファッションは一通りそろえた」とイオンモールの福家敏記・営業統括部長は自信を見せる。同社はかねて、10年後に核顧客となる大学生ら20代の取り込みを狙ってきた。今やその作戦は首都圏のみならず全国で実を結んでいる。
3月に開業したイオンモール和歌山(和歌山市)では、ファッション関連の全57店のうち「H&M」や「OLD NAVY」など40店以上が県内または近畿地区初出店。開業1カ月の来店者は「10~20代が30代を上回った」(福家部長)。
イオンモール天童(山形県天童市)は県内女子大生の買い物スポットに浮上。これまでは洋服を買う時、バスで1時間かけて仙台駅前の「仙台パルコ」などに通っていたという山形市内の女子大生は「ファストファッションも買えるし、仙台に行く回数が減った」。
日経MJがマクロミルを通じて全国の女子大生300人を対象に実施した調査からもこうした実態が見て取れる。「洋服を購入している場所」は「イオンモールなどのショッピングセンター」が63%にのぼり、最大の「ユニクロ」(64%)と肩を並べた。「百貨店」は2割弱、「高級ブランド店」は2%にも満たない。「高級ブランドを買う女子大生は年々減少し、売り上げシェアは90年代の半分以下」(大手百貨店)
デフレの「失われた10年」とは対極のバブル期、女子大生は背伸び消費で自己顕示欲を満たした。価格を問わずブランドロゴや、テイストが価値そのものだった。
だが、デフレ時代に育ったイオン女子大生は「ブランド」「背伸び」とは無縁に近い。ショップへの執着すら薄い。
「よく行くお店? 駅ビルが多いんですけど、名前は覚えていません」(東京女子大学4年の入江妃秋さん)
日経MJの調査では「洋服を購入する際に重視する点」のトップは「価格」の84%。「コストパフォーマンス」(56%)「品質」(52%)と続く。月額のファッション代は「3千~5千円」(31%)がもっとも多い。限られたお金の中で「トレンド」(42%)も少しは意識する。ただし、重視するのは友達のファッションとの調和だ。SCにはカフェが多く「何を買うか、友達と相談もできる」格好の場だ。
ごく自然にシビアな比較購買をする彼女たちは、店やメーカーにとって「得意客」にしづらい存在だ。バブル期の女子大生の「その後」を見てもわかる通り、この年ごろで身についた消費行動は、年を重ねてもそう変わらない。
このまま景気が回復したとしても、マスの集団を一網打尽という販売成果を期待するのは難しそうだ。
アパレル、化粧品各社 「響く販促」に知恵
昨年春「With」や「steady」といった女性誌上に「イオンモールで見つける ときめきワンピコーデ!」などと題した企画が載った。
人気モデルがイオンモールで販売されている洋服で全身をコーディネート。読者はネットでお気に入りのワンピースに投票し、欲しい賞品を選んで応募する。
この"総選挙"ではポイントの「ローリーズファーム」などの人気ブランドから、イオンモール限定品が登場した。イオンモールでは、年1~2回ほど限定モデルを販売しており、2013年の冬にはオンワード樫山などから限定デザインのコートも登場した。クロスカンパニー(岡山市)の「アースミュージック&エコロジー」によれば、イオン女子には「トレンド感の強いものより、ナチュラルでベーシックなデザインが人気」だという。
国内で出店攻勢をかけるイオンモール。6月下旬には名古屋茶屋(名古屋市)を、今秋には岡山駅前など年内にあと4件を出店する予定。名古屋茶屋は流通激戦区の市内にあり、県内初となる外資系ファストファッション「フォーエバー21」が入る。イオンモールを意識し、アパレル側もSC向けの業態開発を進める。「購買力を考えると、数あるSCの中でもイオンモールは無視できない存在。モールごとの客層や地域性に合わせた商品開発などもしていく」(ある大手アパレルメーカー)と関係強化を狙う。
アパレル以上に差別化が難しい化粧品で、口コミ活用の巧みさで、女子大生に大ヒットした商品がある。「天マス」(天まで届け!マスカラ)との流行語まで生んだ、中堅メーカー伊勢半(東京・千代田)の「ヒロインメイク」(税別、1000円)だ。同商品はイオンモール内のドラッグストアでも「よく売れる商品」(同社)。
発売して9年。口コミサイト「アットコスメ」のマスカラ部門では常に上位を占める。ヒットの理由は「プチプラ(安い)」だけではない。
「天マス」はお姫様のキャラクターをあしらった派手な外箱入りだ。「『きわもの』と思ったけど、使ってみたら1日中落ちなかった」とネット上で瞬く間に広がった。その口コミを拡散させるために、伊勢半も製品についてのツイッターを日々検索してはサイトでこまめに紹介した。
サイトへ誘導するために、電車内に貼られたステッカーに注目。2~3月にかけて「天マス」のステッカー広告を実施したところ、ネットで「天マス」サイトを検索した人が1290件とそれまでの16倍になった。「スマホ世代の女子大生が、移動中に目を留めて検索してくれるので、効果絶大」(デジタルマーケティング・PR部の大町龍部長)
有名女優を使ったCMで話題作りをしてきた大手は、女子大生の新たな価値観を前に、作戦の練り直しを迫られている。(大岩佐和子、井土聡子、野場華世)
[日経MJ2014年6月2日掲載]
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