客招く トイレは神様、入るとそこに「絶景」
前に立つとスポットライト
「ハーレルヤ!ハーレルヤ!」。大音量の歌がトイレ内に響きわたる。音楽と同時に天井の照明が消え、小便器の前に立っていた男性にスポットライトがあたる。男性はトイレに入った時のほっとした表情から一転、びっくりしてキョロキョロと周囲を見回していた。
ここはアミューズメント施設「ウェアハウス三橋」(さいたま市)内にある男子トイレ。真ん中の小便器の前に立つと、天井にあるセンサーが反応し、スポットライトを浴びる仕掛けだ。運営するのはソフトレンタル国内大手のゲオホールディングス。「他のゲームセンターでは味わえないような非日常的な空間を演出したかった」という。 この日初めて同施設のトイレを利用した大学生の佐藤拓也さん(19)は「他のお客さんもいて最初は少し恥ずかしかったけど、だんだんステージに立ったような爽快な気分になった」と話す。
兵庫県明石市にあるレストラン「ムーミンパパ」の女子トイレは、周りが水槽にかこまれた水族館風。水槽には熱帯魚をはじめとした約300匹の魚がいるほか、カメも悠然と泳いでいる。その光景はまるで海中さながらだ。
オーナーの宮永幸一さん(65)は趣味がクルージング。「ある日海中で用を足したら、普段は味わえないスケール感があり最高に気持ち良かった。その時の気持ちを他の人にも味わってもらいたいと思い、トイレを作った」という。工事にかかった費用は約3000万円。完成以降、お客さんの数が4倍近くまで伸び、集客にも大きな力を発揮しているようだ。
宮永さんによると、利用者からは「まるでダイビングをした時のような気分を味わえた」という声や「魚が多く、迫力があった」といった声が上がっているという。
とんこつラーメン店「一蘭 新宿中央東口店」のトイレには、16個ものトイレットペーパーかけが設置されている。壁一面に整然とトイレットペーパーが並んでいる光景は壮観だ。店舗に訪れた外国人旅行客は、物珍しそうに次々と記念写真を撮っている。競合が多いラーメン業界のなかで、「トイレに一工夫を加えることで話題づくりをしたかった」。
ジャンプ前の緊張感「落ち着かない」
長野県飯山市の「斑尾高原スキー場」には、スキーのジャンプ台を模したトイレを設置。壁には実際のジャンプ台から
見える景色がプリントされ、足元にはスキー板の絵がある。便座に座ると、滑り降りるスキー選手のような気分を味わうことができる。「トイレは一番落ち着く場所だが、ジャンプ台のように仕立てることで最も落ち着かない場所に仕立てたかった」。利用者からは狙い通り「落ち着かなかった」との声も。
福井県越前町のレストラン「レスト有情」のトイレは6畳ほどの空間に日本庭園を組み込んだもの。天然のコケや砂利を敷き詰めており、優雅な気分で用を足すことができるという。
「ニッポンのトイレ」(アスペクト)の著者でトイレ評論家のマリトモ氏は「温水便座が普及し、トイレに滞在する時間が長くなっている。そのためトイレに対する関心は高まっており、今後も独創的なトイレは増える」と見る。全国各地のユニークなトイレを訪ねてみるのも面白いかもしれない。(出口広元)
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