結成から50年を超えた英ロックバンド、ザ・ローリング・ストーンズが8年ぶりに来日している。70歳のロックスターは徹底的に肉体を鍛え、2014年のストーンズを体当たりで表現した。
ミック・ジャガー(中央)は70歳になったが8年前より体に切れがあり、声にも張りがあった=写真 中嶌英雄来日公演の幕開けとなった2月26日の東京ドーム。超満員のファンがロック界のレジェンドの登場を待ちわびる。予定時刻から遅れること30分。赤いライトが明滅し、重低音が会場を揺らす中で、おなじみの面々が姿を現した。
「カエッテキタゾ、トウキョー」。ボーカルのミック・ジャガー(70)が日本語で叫ぶと、中年男たちの怒号にも似た歓声がこだました。オープニングは1965年のヒット曲「一人ぼっちの世界」。単純なフレーズを繰り返しながらうねりを生み出すキース・リチャーズ(70)のギター、ロックのエイトビートにスイングジャズのような表情を加えるチャーリー・ワッツ(72)のドラム。いきなりストーンズらしさ全開である。
■どんどん若返る
ミック、キース、チャーリー、ギターのロン・ウッド(66)。そろって細身の体を維持している。特にミックの研ぎ澄まされた肉体の切れは別格で、めまぐるしく手を動かし、腰をくねらせ、走り回る。広いステージの端から端まで走っても、息も切らさずに歌い続ける。顔には年齢相応の深いシワが刻まれてきているのに、動きはどんどん若返っている。全く同じ現象が、昨年11月に来日した元ビートルズのポール・マッカートニー(71)にも見られた。
スイングジャズに通じる独特の感覚でリズムにうねりを生み出すドラムのチャーリー・ワッツ=写真 中嶌英雄
いかにもロックンローラーというスタイルが今も似合うロン・ウッド=写真 中嶌英雄音楽評論家の渋谷陽一さんは「ストーンズのステージには、巨大な風船の人形を膨らますといった演出がつきものだったが、今回はそれがなかった。非常に筋肉質なライブだった」と語る。
平均年齢は69.5歳。4人そろって細身の体形を維持している=写真 中嶌英雄「裸のストーンズを見せようという重い決意を感じた。顔にシワができてもメークで隠すことはしないが、体は徹底的に鍛える。8年前の来日時に見た62歳のミックより、今の方が動きがシャープで運動量も多く、声も出ている。衰える肉体と鍛えられる肉体。その両方のリアルを見せてやろうということだろう。特にミックには、今のストーンズは自分が支えなくてはならないという決意があるように思う」と渋谷さんが話す。
ストーンズは2012年に結成50周年を迎え、12年秋から13年夏にかけて英国や米国などの各都市で公演した。今回の来日はそれに続くツアーの一環だ。アラブ首長国連邦(UAE)、日本、中国、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドの順に14公演が予定されている。
ライブも半ばに差し掛かり、1969~74年に在籍したギターの名手ミック・テイラー(65)がゲストで登場すると、会場はひときわ盛り上がった。彼の参加したアルバムこそストーンズのベストと評価する声は多い。
■「今」を感じる名曲
69年発表の「ミッドナイト・ランブラー」をミック・テイラー、キース、ロンの3ギタリストが並んで弾く姿は圧巻で、この日のハイライトになった。「70年代ストーンズと2014年ストーンズの奇跡の合体で、今のストーンズでしか見られない素晴らしい演奏」(渋谷さん)だった。
ストーンズ・サウンドの鍵を握るのはキース・リチャーズ(右)のギターとチャーリー・ワッツのドラムによるリズムの絡み合いだ=写真 中嶌英雄
今のストーンズを支えるのは自分だという決意を感じさせたミック・ジャガー=写真 中嶌英雄後半には「スタート・ミー・アップ」「ブラウン・シュガー」「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」と畳みかけ、最後は再びミック・テイラーを交えて「サティスファクション」で大団円を迎えた。どれも往年の名曲なのに、懐かしさより「今」を感じさせたのが印象深い。
70歳のミック・ジャガーが生身の肉体をぶつける渾身(こんしん)のステージは、今しか見られない。当然だが、それがライブの醍醐味であり、ロックンロールバンドの生命線がライブにあることを自覚して50年余り疾走してきたのがストーンズだ。その事実を体感できるステージだった。4、6日にも東京ドームで公演する。
(編集委員 吉田俊宏)
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