「バナナ彫刻」のリアルな顔で脱力の輪山田恵輔

絵を描くのは得意だったが、まさか自分がバナナを彫るようになるとは思わなかった。僕は「バナナ彫刻師」とか「バナナ職人」とか呼ばれていて、ネットで見たという方もいらっしゃるかもしれない。皮をむいたバナナの実に細かく彫刻するのである。

今年の干支にちなんで彫った「馬」

少し熟したものを使用

写真は今年の干支(えと)にちなんで彫った「馬」だ。どういう道具で彫ったかというと、わが家の台所にあった平たいスプーンと先端を薄く削った爪ようじ、以上である。デザインナイフなどを使うのもいいが、手近にあるありきたりな道具だけでやった方が面白いと僕は考えている。

バナナは青いものよりも、少し熟して皮の表面に「シュガースポット」と呼ばれる斑が出てきたものが適している。実が堅いより、柔らかくなってきたほうが彫りやすいからだ。実を支えるために一筋だけむき残し、それから彫り始める。

制作中の筆者(山田恵輔さん)

まず全体の輪郭を作る。スプーンをさくさく入れて実を大きく削り取る。削った実はもちろん捨てたりしない。食べる。削っては食べ、削っては食べを繰り返すので、申し訳ないが作品は汚い。そこのところは忘れて見ていただきたい。

大体の形を整えたら、細部に入る。爪ようじを使って、ミリ単位で線を刻んでいく。そうこうしているうちにバナナが茶色くなってくる。そこではけでレモン汁を塗る。こうすると変色を遅らせられるのである。

バナナの実をあまり深く削ることはできない。バナナを輪切りにしたときの中心部分(もともとはここに種があったらしい)はゼリー状になっていて、彫刻には適さない。表面から1センチメートルちょっとのところまででどんな形が作れるかが勝負なのである。

作品によって制作時間は1時間から3時間ぐらい。下絵は描けないので、失敗の連続だ。僕が作品をネットで発表し始めたのは2012年だが、お見せできているのは30作品ほど。でもその背後には、バナナの木何本分かの失敗がある。

「マジギレバナナ」。怒った表情を彫った
ちょっと怖いけど「笑顔」

「バナナ職人」誕生

なぜこんなことを始めたのかというと、それには個人的な事情がある。僕は滋賀県彦根市に生まれ育った。友人もみんな地元にいる。ある日、高校卒業後に仲良くしていた友人とけんかをして絶交してしまった。仲間がいなくなると、休日にすることがない。ゲームをしたり、映画を見たりしてもひとりぼっちではつまらない。

あるときリビングのテーブルにバナナを見つけた。「皮むいて顔が出てきたらおもろいやろな」と空想し、戯れに自分で顔を作ってみた。寂しかったので、笑顔を彫った。それが最初だ。

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