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作家性光る「ペコロス」と「かぐや姫」 映画回顧2013

進む大予算作品とインディーズの二極化

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NIKKEI STYLE

圧倒的な作家性が脈打つ映画が2本あった。森崎東監督「ペコロスの母に会いに行く」と高畑勲監督「かぐや姫の物語」。森崎は86歳、高畑は78歳である。

「ペコロスの母に会いに行く」 強い愛と深い悲しみ

森崎の9年ぶりの新作は、認知症になった老母と、彼女を介護する団塊世代の息子の物語。母はついさっきしたことを忘れるのに、遠い昔の記憶はよみがえる。それは故郷の記憶であり、戦争の記憶であり、亡き夫の記憶だ。強い愛と深い悲しみが忘れていたことを呼び起こす。

森崎の作家性は、自身も高齢であることや故郷の長崎が舞台であることからくるのではないし、喜劇映画作家としての職人技でもない。今日の現実と過去の記憶の淡いつながりが、まさに人間の情愛だけでできているという点が森崎的なのだ。

親子であれ、夫婦であれ、仲間であれ、人と人とを結びつける情愛。家庭も地域社会も壊れていくなかで、それでも人と人との間に通いあう痛切な愛惜の念。それこそが「喜劇・女は度胸」(1969年)以来、森崎が描き続けてきたものだろう。記憶のドラマが、森崎が追い求めてきた情念を、純粋な形で浮かび上がらせた。

「かぐや姫の物語」 人間の存在そのものに迫る作品

高畑の14年ぶりの新作は、その到達点ともいうべき傑作だった。

淡い色彩に柔らかい筆の線。画面の余白がその筆勢を引き立てる。そんな手描きの絵に強い感情がこもる。幼子に対するくもりのない愛情、成長に伴い芽生える欲望、自由への渇望と運命の過酷さ。誰もが知る「竹取物語」を題材に、人間の美しさと愚かさを描き出し、人生の意味を問う。

都に連れ出されたかぐや姫が十二単(ひとえ)を脱ぎ捨てて出奔するシーンの迫力はアニメ史に残るであろう。「アルプスの少女ハイジ」(1974年)に通じるモチーフだが、約40年を経て高畑は人間の存在そのものに迫る物語に昇華させた。その卓越した構想力と冷徹な世界観に脱帽した。

低予算と製作費50億円 対極にある2つの映画

2人の老監督の作品は経済的には対極の位置にある。森崎作品はかなりの低予算。一方の高畑作品は50億円という破格の製作費をかけた。人件費が重きを占めるアニメで8年の歳月をかけたためというが、それだけの時間が高畑の作家性を存分に引き出したといえるかもしれない。逆に森崎作品は低予算ゆえに今日の日本映画の様々な制約から逃れ得たといえるかもしれない。

ただ最も重要なことはこの2人が、映画市場の動向や日本経済の状況がどうあれ、そんなものにはびくともしない強じんな魂をもった作家であったということだ。世の風向きに左右されないゴツンとした核のようなもの。それが心に残ったのは、そんなものづくりをする人がどの世界でもめっきり減ったからに違いない。

作家性の強い監督にとって現在の日本映画の製作状況は厳しい。「商業映画とインディーズの二極化が進み、かつてのように1億円ちょっとで作って単館系で回収するのが難しくなった」と是枝裕和監督は語った。映画ファンのコア層が減ったのに加え、DVDやテレビ放送など2次使用権の価格下落で、ミニシアターを軸に公開するアート作品の成立が難しい。より大きな予算で拡大興行に挑むか、数千万円以下、時に数百万円の低予算作品で勝負するか。作り手は選択を迫られる。

「そして父になる」 オリジナルで興行収入31億円のヒット

カンヌ国際映画祭で審査員賞を獲得した是枝監督「そして父になる」は前者の成功例であり、一つの光明を示した。フジテレビという大きなテレビ局と組み、福山雅治という人気歌手を主役に据え、興行収入31億円のヒットとなった。ベストセラー小説や漫画、ドラマの映画化ばかりが幅をきかす中、戦略を立てた上で、オリジナルで勝負し続ける是枝の姿勢をここではまず評価したい。

6歳の息子が新生児の時に取り違えられたことが発覚した2組の夫婦を通して、父になることの意味を問う物語だ。淡々とした日常にドラマを探ってきた是枝が「自分の足元を掘り下げた」と言う通り、子育てという身近な題材を冷徹な視線でとらえ直し、普遍的な人間ドラマに仕上げた。

もう一方の極である低予算の独立系作品にも注目すべき傑作があった。こちらにも光はある。

「フラッシュバックメモリーズ3D」 これまでにない3D映画

最も驚かされたのは松江哲明監督「フラッシュバックメモリーズ3D」。事故で記憶を失ったミュージシャンの復帰ライブと、彼が忘れてしまった過去の映像とを重層的に映し出す。これまでにない3D映画だった。演奏を通してよみがえる記憶。新しい記憶を忘れないための努力。それが、人間が生きる意味、生きる営みと重なってくる。

商業的な大作では成立しづらい、現実の事件を下敷きにした低予算作品にも力があった。秋葉原無差別殺傷事件に材をとる大森立嗣監督「ぼっちゃん」、女子高校生の母親毒殺未遂事件をもとにした土屋豊監督「タリウム少女の毒殺日記」、東京・足立の年金詐取事件に想を得た小林政広監督「日本の悲劇」。映画作家たちはそれぞれの事件に霊感を得ながらも、自身の世界観を強く打ち出し、現代社会そのものを射抜いた。

この映画作家でしか描けない世界

若手や中堅ばかりではない。ベテランの伊藤俊也監督が自主製作した「始まりも終わりもない」は舞踊家・田中泯の身体表現を通して日本の戦後を描き出した。伊藤自身の戦後史への思いも色濃くにじんでおり、撮られなければならない作品だった。石井隆監督「フィギュアなあなた」「甘い鞭」も共に小品ながら、人間の性の根源に迫り、祝祭的な夢想世界を現出させた。映画でしか表せない、この映画作家でしか描けない世界だ。

映画作家が自らの原点を見つめ直したような低予算作品も目立った。SABU監督「Miss ZOMBIE」、山下敦弘監督「もらとりあむタマ子」は小品ゆえに、監督の資質が鮮明に表れていた。篠崎誠監督「あれから」は東日本大震災後を生きるごく平凡な人々の心の揺れを繊細なタッチでとらえた。橋口亮輔監督「ゼンタイ」は俳優のワークショップから生まれた中編だが、生きることの切なさをわしづかみする力は健在だった。

「先祖になる」「うたうひと」…ドキュメンタリーも豊作

ドキュメンタリーも豊作だった。震災関連では池谷薫監督「先祖になる」がとらえた被災地の老人の一徹な生き方、松林要樹監督「祭の馬」の原発事故に翻弄される馬たちの姿が忘れられない。酒井耕・濱口竜介監督「うたうひと」は、前作で試みた被災者の語りを正面からとらえる手法が実を結び、東北の庶民史の古層にまで迫った。

羽田澄子監督「そしてAKIKOは…」はダンサー、アキコ・カンダの最後の日々を見つめる羽田の冷徹なまなざしに圧倒された。創作者としての自らの生き方を貫くアキコの魂が、羽田の魂とも共振していた。泡沫(ほうまつ)候補と呼ばれた人々を追った藤岡利充監督「立候補」は、その人間像に迫りつつ、現代の大衆意識、社会の空気まで写し取る快作だった。

興行収入1位は宮崎駿監督「風立ちぬ」で、120億円台に乗った。2位はピクサーの「モンスターズ・ユニバーシティ」。1、2位を高品質のアニメが占めた。洋画は年頭に「レ・ミゼラブル」「テッド」が大ヒットしたものの、その後は尻すぼまりで、構造的な不振から抜け出せない。

「さよなら渓谷」 極限の愛を徹底的にリアルに描く

テレビを中心に大量宣伝する作品しか当たらない状況で、洋画や中規模以下の邦画は苦しい。封切り直後の動員に応じてスクリーン数や上映期間を大胆に絞り込むシネコン興行になって、じわじわと口コミで良さが伝わる映画が減った。情報化が映画の商品寿命を縮め、秀作の居場所を狭めた。

そんな状況下でも第一線の監督は撮り続けている。力のある作品は少なくない。

大森立嗣監督「さよなら渓谷」は吉田修一の同名小説の映画化で、レイプ事件の加害者と被害者の間に芽生えた極限の愛を、徹底的にリアルに描いた。セリフを切り詰め、汗や吐息、衣ずれや日差しといった具体的な事物だけで、感情のうねりを描き出す。大森の演出家としての力量が存分に発揮されていた。

「共喰い」 北九州という土地を通して戦後の深層に迫る

青山真治監督「共喰い」も画面に力がみなぎっていた。暴力癖のある父親の血を継いだことを恐れる青年の物語。田中慎弥の同名小説が原作だが、昭和と平成の切断面を描き出す青山の第一作「Helpless」とも呼応する。北九州という土地を通して戦後日本の深層に迫る青山の映画作家としての迫力を感じさせた。

冨樫森監督「おしん」は30年前の国民的テレビドラマの映画化でありながら、映画としての豊かな手ざわりをもつ傑作だった。水くみ、火起こし、飯炊き、洗濯、ぞうきんがけ、子守……。冨樫は絶え間なく働くおしんの身ぶりをひたすら追い、その身体性を通して、女性の労働という現代に連なる主題を浮かび上がらせた。

クロード・ガニオン監督「カラカラ」、中村義洋監督「みなさん、さようなら」、廣木隆一監督「だいじょうぶ3組」、石井裕也監督「舟を編む」、三池崇史監督「藁の楯」、中田秀夫監督「クロユリ団地」、白石和弥監督「凶悪」、園子温監督「地獄でなぜ悪い」、吉田恵輔監督「麦子さんと」はそれぞれ挑戦心に満ち、見応えがあった。

「ホーリー・モーターズ」 画面から突き抜けてくる映画作家の叫び

李相日監督「許されざる者」、阪本順治監督「人類資金」には、どうしてもこの作品を撮りたいという監督の叫びがあった。山田洋次監督「東京家族」、降旗康男監督「少年H」にはベテラン監督の戦後、戦中への思いが透けて見えた。

外国映画ではレオス・カラックス監督の13年ぶりの長編「ホーリー・モーターズ」に圧倒された。たまりにたまった映画作家の叫びが、デジタル化によって変質する映画への危機感とあいまって、画面から突き抜けてくるようだった。ワン・ビン監督「三姉妹/雲南の子」、タヴィアーニ兄弟監督「塀の中のジュリアス・シーザー」はドキュメンタリーとフィクションの違いを超えて、それぞれに新しいリアリズムを感じさせた。

映画監督の作家性を追求し、擁護し続けた大島渚の不在は重い。「深海に生きる魚族のように、自らが燃えなければ何処にも光はない」という大島の座右の銘は、今日の監督たちが置かれた状況にも通じるに違いない。大島に加え、高野悦子、ドナルド・リチーら日本と世界の懸け橋となったかけがえのない映画人が世を去った。映画黄金期から現代まで強烈な存在感を発揮し続けた俳優、三国連太郎も逝った。

(編集委員 古賀重樹)

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