11月2日に東京ビッグサイト(東京・江東)で開催されたアートイベント「デザインフェスタ vol.38」では、スチームパンクのファッションショーが開かれた。仕掛けたのは東京発明者協会という都内で活動するクリエーターのグループだ。開始時刻にはステージ周辺に300人超が集まり、中にはスチームパンクファッションの男女も散見された。
ショーの後半のテーマは「日常に溶け込むスチームパンク」。現代風のファッションにゴーグル付きの帽子やコルセット、革のトランクなどを組み合わせたモデルに観客らは熱心に見入っていた。終了後には「個性的でかっこよかった。部分的に取り入れるのはいいかも」(24歳女性)といった声も聞かれた。
企業もこうした動きに注目しつつある。システム構築のアイディーエス(東京・港)は8月末、同社初のEC(電子商取引)サイト「歯車亭」を開設した。時計の機構を使ったペンダント(5980円)や真ちゅうと銅のUSBメモリー(1万5130円)など、生活に取り入れやすいスチームパンクの雑貨を取り扱う。サイトの2カ月間の累計ページビューは15万と関心を集める。
2011年から関連書籍を手掛けているグラフィック社(東京・千代田)編集部によると「好きだった映像作品や服装が実はスチームパンクだったと知る人が多い」。
同社は昨年、クリエーターたちによる衣装、時計、オブジェなどの作品、制作工程なども紹介した「スチームパンク東方研究所」を刊行。第1弾は2カ月で完売し、増刷を決めた。来夏には第4弾を発売する予定だ。
スチームパンクの定義も、取り入れ方も人によって違う。だが、魅力の1つとして「共通した雰囲気はあるけれど、解釈は人それぞれ。その多様性を認め合える懐の深さ」(松島さん)があると言えそうだ。ファッションや日常使う道具から物語が生まれる。奥深いスチームパンクの森に、一歩踏み出してみるのも面白いかもしれない。
(正田素子)
[日経MJ2013年11月10日付]