アマゾンもびっくり? 未知の本、人の輪でオススメ
書評合戦や一押し本の交換会
「著者は僕の人生を変えた人。高校生がこの本を読んだら人生変わるかも」
「事件の裏側が書いてあって、ニュースの見方が変わる本です」
9月中旬の週末。紀伊国屋書店新宿南店(東京・渋谷)の店内特設会場には20~40代の男女が集まった。目当てはビブリオバトルだ。午後4時の開始前に用意された40席はほぼ埋まった。
ビブリオバトルは、個人が面白いと思った本を持ち寄って、発表者の立場で紹介する。発表時間は1人5分で、時間が過ぎた時点で終了。時間が余っても話し続けなければならない。
発表後に2分程度の質疑応答があり、すべての発表が終了後、発表者と観客は最も読みたい本に投票する。最も多くの票を獲得した本が「チャンプ本」になるシンプルなゲームだ。
この日の発表者は15人で3ゲームが行われた。2ゲーム目でチャンプ本に輝いたのはアレックス・シアラー著「チョコレート・アンダーグラウンド」。発表者は東京都八王子市の大学1年生、武藤広行さんだ。
「どうしても紹介したい本がある」として参戦し、5戦目にして初のチャンプ本を獲得した。「同じ世代の友達はゲームやF1レースに関心があって、自分が興味のある本の話は聞いてくれない」(武藤さん)。そんな時、インターネットでビブリオバトルの存在を知った。
毎回壇上では手足が震えるほど緊張する。だが「ほかの発表者と終了後に情報交換できるのが何よりも楽しい」と武藤さん。同じ本を愛する発表者同士で懇親会も開かれ、世代や職業などを超えて、本を中心に友達の輪が広がっている。
主催する紀伊国屋書店に勤める瀬部貴行さんも、イベントが終われば個人の立場でビブリオバトルの交流の輪に飛び込む。「常連の発表者とは、情報交換を含めて一緒に飲みに行ったりします」
ビブリオバトルは2007年に京都大学で生まれた。10年以降、紀伊国屋書店が定期的に開催しているほか、東京都などが全国大会の「ビブリオバトル首都決戦」を始めたこともあり全国に広がった。ビブリオバトル普及委員会事務局によると、13年1~8月の開催回数は474回で、前年同期と比べて8割も増えたという。
「本と出合うだけでなく、本を通じて人を知ることが真の魅力」。ビブリオバトルを考案したビブリオバトル普及委員会代表の谷口忠大さんは、こう指摘する。
文京区立千石図書館で9月下旬に初開催されたビブリオバトル。「文京区ゆかりの文人」をテーマに6人が発表したが、そのうちの1人、会社員の梶川悦子さんは社内でビブリオバトルを楽しむ。「普段接している人が意外な本を読んでいるのを知って、新しい面を見つけられる」。本を出発点にしたコミュニケーションは、社内の潤滑油にもなるようだ。
「絶対に2度読み返したくなる本」「悩み事がある人に読んでもらうと、バカバカしくて忘れられます」
大阪市中心部の梅田駅近くにある交流スペース。9月下旬に開かれた「ブクブク交換」と銘打ったイベントには30~40代の24人が集まった。「酒・酒場」「秋の夜長に読みたい本」など事前に設定された3つのテーマで持ち寄った数冊の本の魅力を、6つのグループに分かれて各自が数分間ずつ紹介し合った。
「泣きたい夜、暴れたい夜に読め!」などと紹介文を書いた付箋が表紙に貼られ、名刺も挟まれている。最後にお薦めする本を1カ所に集めて、欲しい本には手を挙げる。競合するとジャンケンに。持参した冊数だけ交換でき、交換した本は返却する必要はない。
普段は手に取らない本に出合えるだけではない。「普通に生活していたら接点のない人と、本を通じてつながることができる」。京都府大山崎町から参加した主婦、水口日和さんはブクブク交換の魅力をこう語る。この日も午後9時の閉会後、2次会で居酒屋へ。ブクブク交換後、半数以上が残り、本以外の話題で最終電車近くまで盛り上がった。
ブクブク交換はイベントプロデューサーのテリー植田さんが2010年に発案し、これまで世界26都市で開催された。だれでも気軽に主催できるため、カフェなどで広がってきた。
「ブクブク交換をきっかけに、知らない人同士が仲良くなってくれれば」とテリー植田さん。イベント参加をきっかけに、結婚する人もいるという。
(倉本吾郎)
[日経MJ2013年9月30日付]
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