強者同士が真剣勝負 作り手・買い手・書き手とも過酷カンヌ映画祭リポート2013(4)

カンヌは怖いところだ。「華やかで冷酷。怠惰で淫蕩(いんとう)。強欲で非情なカンヌの町の底から絶えず漂ってくるのは死の匂いだ」。1950年代末から45年も通ったエッセイストの秦早穂子さんは自著「影の部分」に記す。

開幕を待つ主会場のパレ。66回を迎える今年の公式ポスターはおしどり夫婦として知られたポール・ニューマンとジョアン・ウッドワードのキス写真。「パリが恋するとき」(1963年)の一場面で、「66」の形を思わせる

華やかな成功物語の影に、敗者たちの悲惨があり、嫉妬が渦を巻く。監督も俳優もプロデューサーもバイヤーも、分刻みのスケジュールで忙しく動き回り、豊かな実りを得る者もいれば、失意に沈む者もいる。

観客は1本でも多く見たいから、つまらないと思ったら上映の途中でどんどん席を立つ。新聞評は容赦なくたたく。評判がよくても審査員が理解しなければ賞はとれない。作品の売買を巡る虚々実々の駆け引きもある。誰もが真剣、ゆえに非情なのだ。

批評家やジャーナリストにとってもハードな場所だ。毎朝8時半のプレス向け上映に始まって、深夜の上映が終わるのは午前0時から2時ごろ。見ようと思えば1日6~7本は見られるが、記者会見があり、インタビューがあり、原稿も送るとなると、1日3~4本が限度。見切れない量の話題作がある。

知り合いの映画人はたくさん集まっているのに、ゆっくり話す暇もない。食事もままならず、寝る間もろくにない。「優雅に楽しんでるんだろう」という周囲の想像とは真逆の過酷な現場だ。冷蔵庫もバスタブもない宿に泊まり、肉体も精神も限界まですり減らして働く。

なんでそんなに働くのかと問われれば、それがカンヌの魔力だと答えるしかない。参加する誰もが高揚している。世界中が注目し、影響力も大きい。そもそも映画というものが、そんな高揚感の中で生まれるものだからだろう。売り買いもしかり、批評もしかりだ。

一般のファンを相手にする多くの映画祭と違い、カンヌは完全にプロフェッショナルな世界である。誰もが仕事で来る。強者同士の真剣勝負の場だ。

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