アート巡りは島巡り 瀬戸内国際芸術祭2013開幕街アート旅アート(3)

2013/3/30
豊島の丘の上からの美しい眺望

こんなに美しい土地に来たら、アートなんていらないと思う。でもアートがなければ、ここまではきっと来ない――。旅先でそんな自問自答をする体験をした。

3月19日、瀬戸内海に浮かぶ香川県の豊島(てしま)に高松港から船で渡り、島内を循環するバスに乗った。バスは島の玄関口、家浦港から東部に位置する唐櫃(からと)浜に向かって内陸部でゆるいカーブを描く道を走る。唐櫃岡を越えた辺りで、目が覚めるような眺望が開けた。下り斜面の先に海が広がっている。バスを降りると、風が気持ちよくほおをなでた。近くには、造形が美しい棚田風景。耳に入ってくるのは、ぼーぼーという風の音と時折鳴く鳥の声だけだ。島と海のつくり出した至福の風景を体全体で受け止めると、もうこれ以上、何もいらないと思ったのだ。

こんな空間がありうるのか

豊島美術館外観。瀬戸内国際芸術祭の鑑賞パスポートとは別に入場料(1000円)が必要(写真 鈴木研一)

豊島を訪れたのは、瀬戸内海の島々を舞台に約200のアート作品を配して翌20日に始まる「瀬戸内国際芸術祭2013」の取材のためだ。バスで向かったのは、唐櫃浜の手前にある豊島美術館。風景があまりに美しく、目的の建物を目にする前に、体も心も十分満足していた。

ところが、豊島美術館に着き、スタッフの案内に従って敷地の中を少し歩いた後、建物の中に入ると、一瞬にして新たな感情で心が満たされた。

「こんな空間がありうるのか」

思わずつぶやいた。これまでに訪ねたどこにも、似た場所はなかった。心の中のもやもやを消し去り、安寧を感じさせてくれる空間が、そこにあった。

気鋭の建築家、西沢立衛が設計を手がけたその建物は、中央が穏やかに盛り上がった楕円形だ。長い方の径は60メートルあるという。巨大な鳥の卵が斜面の中腹に埋められ、そのごく一部が地上に顔をのぞかせているかのよう。なめらかな曲面の石のようにも見え、風景に溶け込んでいる。“卵の殻”の一部に円形と楕円形、2つの穴が空いている。そこから建物の中に外光が差し込み、風がそよぐ。

豊島美術館の中では、内藤礼の「母型」を鑑賞できる(写真 森川昇)

建物と一体化させてアートを表現したのは、美術家の内藤礼。「母型」という作品名がついている。中に立つと、コンクリートの床の随所に大小の水滴があることに気づく。時折いくつかの水滴が転がるように流れ、小さな穴に吸い込まれていく。床にはごく緩やかな傾斜があるようだ。さらに観察を続けると、吸い込まれるのとは別の小さな穴から時々水が湧き出すように出てくるのが分かる。それも、ほんの少しずつ。その動きは卵のような建物や、移ろう周囲の自然と渾然(こんぜん)一体となり、中に立つ人の意識を包み込み、そして解放する。