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理想の最期を迎えるには 元気なうちから家族と話し合い

2012/7/30

「どこで、どんな最期を迎えたいか」。高齢化の進展で亡くなる人の数が2011年には120万人を突破するなど年々増加。それに伴い自分や家族の理想の最期を巡る議論が静かに広がっている。実現するためには医療や介護、みとる家族らに何が必要なのか。現場を追った。

理想の最期を迎えるには本人や家族が気軽に相談できる医療コーディネーターの存在も重要(相談を受ける堀さん)

関東地方で夫と暮らす太田紀子さん(仮名)は80歳を過ぎた5年前、検診で肺がんが見つかった。自覚症状もない小さながんだったことから、医師は手術で取ることを勧めた。「あと10年は生きられる」という。ただし寝たきりになる恐れもある。ほかに放射線治療や特に治療はしないという手もあった。それぞれ余命は2年、1年ほどとの説明。

紀子さんは「90歳過ぎて寝たきりになってまで生きていたくはない」と手術を拒否。放射線治療を選んだ。約1カ月の通院治療の後、普段通りの生活に戻る。

■自宅で過ごすことを選択

4年後の昨年、がんは再発。このときも入院して治療するか、薬で痛みを取りながら自宅で過ごすかの選択となった。入院すれば半年持つかもしれないが、そのまま病院で亡くなる可能性が高い。在宅なら余命3カ月かもしれない。

紀子さんは家で過ごすと決め、ちょうど3カ月ほどで亡くなった。在宅療養の後半は寝ていることが多かったが、亡くなる直前まで自分でトイレに立ち、水を飲むこともできた。動ける間に思い出の品を整理し、葬儀の段取りまで決めた。息子は「母らしい、いい最期だった」と振り返る。

在宅療養を支える会員制組織「ライフケアシステム」(東京・千代田)で多くの患者をみとってきた辻彼南雄医師は「家で死ぬことがだれにとっても理想というわけではない。十分な情報に基づいて本人が選択することが理想の最期」と考える。だから紀子さんのケースは理想に近いと見る。

ただ、現状はだれもが十分な情報を得られるわけではない。病院の医師は忙しく、選択肢を丁寧に説明する余裕がない。患者が医師と対等な立場で話し合うことも難しい。在宅療養を選んだとき、どこにでも支えてくれる医療・介護の専門家がいるわけでもない。

辻医師は「医師が患者と十分に接することができるような医療制度の改革や、医師と患者の間に立ち、患者に最期までの行程をわかりやすく示してくれる専門家が、今後もっと必要になる」という。在宅療養の基盤整備も欠かせない。

■家族の協力も重要

本人が望む最期のためには家族の協力も必須だ。

東京都在住の山田信二さん(仮名、70代)は今年初め、末期の膵臓(すいぞう)がんで入院。「余命半年」と診断された。信二さんは家に帰りたがったが、妻の優子さん(仮名)は自分の体調もあり、ためらった。

そんなとき、家族の一人が医療相談などを担う医療コーディネータージャパン(東京・千代田)という会社を知り、社長で看護師の堀エリカさんに相談した。堀さんは在宅療養に関する不安などを丁寧に聞き、アドバイスをした。

優子さんは「つらくなったらもう一度入院することもできるなどと聞き、気持ちが楽になって覚悟ができた」と話す。信二さんは最期までおむつを拒否するなどの意志を貫き、今春、家で亡くなった。「お父さんらしい最期だった」と遺族は納得の表情だ。

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