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巨人・沢村投手は「鉄面皮」か それとも「鉄仮面」か

2011/6/14

交流戦も終盤に差しかかり、24日にはリーグ戦が再開されるプロ野球。ある日の日本経済新聞の野球記事中の一文に対し、読者センター宛てに違和感を訴える指摘が届きました。「快投を演じた巨人・沢村は、いつもの鉄面皮を崩すことなく『期待に応えられた。楽しかった』と振り返った」――。
沢村投手の活躍次第で「鉄仮面」を載せる辞書が増えそうだ(共同)

その理由は「鉄面皮」にあります。鉄面皮は「(「鉄のような面の皮」の意)恥を恥とも感じないこと。あつかましいこと。また、その人」(広辞苑第6版=岩波書店)という意味。もちろん、沢村拓一投手が「恥知らず」であるわけなどありません。感情を表に出さない投球スタイルをとる沢村投手を言い表すなら、硬い鉄の仮面をかぶっているかのように表情が変わらない(=無表情)という意味で「鉄仮面」とした方が適切だったでしょう。

プロ野球には歴代、鉄仮面と呼ばれる選手がいました。現在ではほかに涌井秀章投手(西武)らがクールな様子からそう呼ばれています。古くは1970~80年代に活躍した加藤初投手(巨人など)がマウンドでのポーカーフェースぶりからこの愛称で知られ、91年出版の自著は「鉄仮面投手の直言を受けてみろ」という副題でした。新聞ではあまり使われない表現ですが、日経では「あの見慣れた鉄仮面がカメラが去った途端に緩み」(こわもてで有名なロシア首脳)、「表情は鉄仮面のように動かさない」(ヒーローインタビューに淡々と答えたJリーガー)など野球以外にも用例が広がっています。

こうした意味での「鉄仮面」は、17~18世紀のフランス・バスチーユ監獄で政治犯などの囚人が鉄製の仮面を着用していたことに由来すると考えられます。とはいうものの「鉄仮面」を掲載する辞書はほとんどなく、日本語大辞典第2版(講談社)が「デュマ(父)の小説。『三銃士』の続編の一つ」と載せる程度。「無表情」の意味は見当たらず、取りこぼされているようです。複数の辞書編集者に当たってみたところ、「意外だ」「改訂の際に掲載を検討したい」などと驚きや興味を示す声がありました。沢村投手らの活躍で「鉄仮面」が新聞紙面をにぎわす日が続けば、今後「鉄仮面」を載せる辞書が増え、「鉄面皮」との混同も避けられることになるでしょう。

(角田康祐)

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