「エンターテインメントとして面白いし、イルカを食べる意味や殺す方法、食の安全といった問題提起もしている。プロパガンダ映画の中では、様々な考察の視点を与える有益な映画だと思う」と、肯定的にとらえるのは「A」や「放送禁止歌」などのドキュメンタリー作品で知られる森達也監督だ。
「イルカ漁の漁師に悪役を担わせてはいるが、それほどあしざまに描こうという悪意は感じなかった」と言う。「この作品における真の被写体が実は漁師ではなく、潜入してイルカ漁を撮ろうとしている撮影隊自身だからだ。イルカ漁反対の中心人物であるリック・オバリー氏の主張に対しても無条件に寄り添うのではなく、一定の距離を置いている」と見る。
「漁師を悪者扱い」
これに対し「被写体に対する態度はドキュメンタリーとしては最悪」と、米ニューヨークを拠点にドキュメンタリー映画「選挙」「精神」を発表してきた想田和弘監督は批判する。「なぜイルカを捕るのか、捕らざるを得ないのか。そういった問いをすべて放棄して、最初から自分たちは正義の味方、漁師は悪者という扱いをしている」
しかも、その善悪二元論がエンターテインメント性を高めるために用いられた点が問題だという。「この映画はバッシングをエンターテインメントにしている。イルカを殺すなんてとんでもないと思っている大多数の米国人は、映画を見ながら、自分を簡単に善人の側に置ける。よく知らない日本という国の漁師を気持ちよくバッシングして、見終わった後カタルシスを得られる。罪を犯した芸能人をワイドショーがたたけばたたくほど視聴率が上がるのと同じ原理を、作り手は計算の上で利用している」
ドキュメンタリー映画「ゆきゆきて、神軍」「全身小説家」などの原一男監督も「本気でイルカ保護を訴えたいという純粋な動機をつきつめているならいいが、イルカを素材に面白い、受ける映画を作ってやろうという下心が透けて見える。プロパガンダともいえない、いかがわしさを感じる」と語る。