ビットコイン再考 根強い支持とナカモト氏の誤算

マウントゴックスはどうやってビットコインを盗まれたのかを明らかにしていないが、有力とされているのが「多重使用攻撃」。送金が正常に終了していないように見せかけて何度も送金し、多額のビットコインを移動させるというものだ。運営会社MTGOXは2月末、「バグを悪用した不正アクセスにより、ビットコインが不正に引き出されている可能性がある」と発表している。この攻撃を可能にするバグは以前から知られていたのに、マウントゴックスは送金が正常に終了しないと自動で再送金する設定を見直さず、ビットコインの流出につながったという指摘がある。

それ以外でも、取引所のウォレットの秘密鍵が知られてしまえば、取引所が預かるビットコインは盗まれたも同然になる。秘密鍵の管理はきわめて重要で、他人に知られると自分のビットコインを自由に送金されてしまい、クレジットカードなどのように利用停止の申し立てもできない。また、ウォレットが入った端末が破損するなどで秘密鍵が分からなくなってしまうとビットコインは誰にも触れなくなり、失ったのと同じになる。それを防ぐ最も有効な方法は、冗談のようだが「秘密鍵を紙に印刷して金庫に入れておくこと」だとされる。秘密鍵さえ把握していれば、ウォレットが消滅しても別のウォレットから出し入れができる。

横浜国立大大学院の松本勉教授は「信頼できるか分からないベンチャー企業に、誰もが『みんなが預けているから』というだけの理由で秘密鍵を預けてしまっていた」と話す。いくら暗号の仕組みが強固でも、使う側が秘密鍵の管理をおろそかにした途端、ビットコインは極めて不安定な存在になる。

このように、マウントゴックスの騒動はビットコイン自体の仕組みとは関係ない。とはいえ、急激な利用拡大は、ビットコインにナカモト論文の想定を超えたひずみを生んだ。

■論文とは「完全に別物」

Q 論文通りならうまくいくはずだが?

A 国立情報学研究所の岡田仁志准教授は「いまのビットコインは、論文に書かれているものとは完全に別物」と指摘する。論文が描くのは、ネットワークの参加者の誰もが対等で、送金者であり、受領者であり、マイナーであるというきわめて民主的な仕組みだ。その源流には、アナーキーな思想を持つハッカー文化がある。「優秀なハッカーが集まる国際会議では、2001年ごろにはすでに、どこの国のものでもない仮想通貨を作ろうという構想があった」(岡田氏)

しかし、いまやビットコインは少数の取引所とマイニング業者が仕切る世界だ。大きな取引所は2桁に満たず、マイニングも、国家レベルの処理能力のコンピューターを持つ大手3~4社がシェア6~7割を握るといわれる。松本氏は「取引のコストは低くても、マイニングにはとてつもない電気代がかかっており、システム全体の維持コストは決して小さくない」と指摘する。

この事実は、ビットコインの看板である「低コスト」すら脅かす。業者の寡占が進めば、彼らが自分たちの利益のために両替やマイニングの手数料を引き上げる可能性があるからだ。

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