83歳香港実業家が16歳英国青年に投資する時代クオンタムリープCEO 出井伸之氏

「個人が国境を超え結びつき、新しい価値を生み出す」

先日、16歳のイギリス人の若者がオフィスを訪ねてきた。名前をニック・D’アロイシオという。ビジネスで高校生が訪ねてきたのは初めてだ。まだあどけない顔のニックだが、ウェブサイトのキーワードを要約して表示することで、検索をより効率的にする画期的な技術を開発し、アジアで最も裕福な香港の実業家・李嘉誠から、エンジェル・マネーを引き出したという。16歳のイギリス人の少年が、83歳の香港人の実業家から支援を受けているのである。このことは、独立した個人同士が、国境を超えて結びつき、新しい価値を生み出す時代が到来したことを象徴している。

近年、企業活動において、国境の意味がますます失われつつある。例えば、アップル社のiPhone3Gの基幹部品は、日本、ドイツ、韓国、アメリカ企業などから調達され、台湾の会社により中国で組み立てられ、世界に輸出されている。IT(情報技術)やエレクトロニクスの多くのブランドは、同じような構図で作られている。

製品は中国で生産されて輸出されているので、中国が世界の工場として脚光を浴びているが、アジア開発銀行の調査によれば、iPhoneの場合、実際に中国の組み立てによる付加価値は、製造原価のわずか3%と少額である。日本企業34%、ドイツ企業17%、韓国企業6%、アメリカ企業3%と、付加価値の多くは先進国メーカーによるものである。こうした例からも、国境を意識していては、企業活動の実態を正しく理解できない。

失われる企業という組織の枠

しかし、今、次なる動きが広がりつつある。個人が企業の枠を超えて、活動をし始めており、企業という組織の枠の意味が、次第に失われつつあるのである。従来、人、モノ(生産設備)、カネをどれだけ組織内に囲い込むかで、競争力の優劣が決まっていた。ところが今では、生産は最も安価で、柔軟に体制を組むことができる地域に委託すればよい。資金も世界中から容易に集めることができる。人についても同様で、世界中の才能ある個人を有機的に結びつけることができる。フェイスブックやリンクトインなどのソーシャル・ネットワークが、さらにそれを容易にしている。

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個人の才能を束ねるプロデューサーが必要
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