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税を知る

実は特殊な日本の相続税 理由は農家を救うため

2014/7/17

■「妙案」が招いた理不尽

――相続額に応じて課税されるということですが、相続税がかかるかどうかは遺産総額が基準ですよね。矛盾していませんか。

それは、日本の相続税制が独自の発展を遂げたからです。遺産取得税では遺産を平等に分けた方が有利ですが、それだと困ってしまう人たちがいました。農家です。限られた農地を均等に相続したら農業の経営が成り立ちませんが、かといって長男だけに相続させると税金が重くなってしまうからです。税金を減らしたいあまり、実際は長男だけが相続するのに、ほかの兄弟ももらったことにするという仮装分割が横行したのです。

これではいけないということで、秘策として編み出されたのが、58年に導入され現在まで続く「法定相続分課税方式に基づく遺産取得税方式」です。遺産取得税でありながら遺産税的な要素を取り込んだ、世界でも珍しい仕組みです。

相続税がかかるかどうかが遺産総額で決まるのは、まさしく遺産税的な考え方です。「遺産総額がこの水準を超えるまでは相続税がかからない」という額を基礎控除といい、現在は「5000万円+1000万円×法定相続人の数」です。2015年からは「3000万円+600万円×法定相続人の数」に縮小されます。

相続税がかかる場合、計算は次のようになります。まず、基礎控除を遺産の総額から引きます。次に、ここがポイントですが、遺産が実際どのように分けられるかにかかわらず、いったん法定相続分で相続したと仮定します。そして、それぞれの相続分に累進税率をかけて税額を計算し、それらをすべて足し合わせます。これが相続税の総額です。こうすることで、遺産をどう分けても総額は同じになります。

その額を遺産を受け取った割合に応じて分け、最後に各相続人が差し引ける税額控除を引くと、各人が払う相続税の額が決定します。これなら、長男だけが相続しても不利になりません。

――なぜこんな仕組みなのかと思っていましたが、確かに妙案ですね。

ただし、遺産税の発想を取り入れたことで、受け取った遺産の額に応じて税額が決まるという、遺産取得税の本来の原則は崩れてしまいました。いまの仕組みでは税額が遺産の総額に左右されるので、たとえば同じ3000万円を相続しても、遺産全体が5億円か5000万円かで払う相続税は大きく変わります。

こんなことも考えられます。兄弟で相続したものの、兄が遺産を一部隠していて、後日それが見つかったとしましょう。すると遺産の総額が増えるので、弟はたとえ取り分がそのままでも、相続税が増えてしまうのです。

農地についてはその後、相続税の基準となる評価額を下げる特例も導入されたため、現在では二重に配慮されている状態です。この特例がある以上、わざわざややこしい仕組みにしなくても農地の単独相続は不利にならないわけですから、シンプルな遺産取得税に改めていくのが望ましいと思います。

(聞き手は電子報道部 森下寛繁)

三木義一(みき・よしかず) 青山学院大学法学部教授。弁護士として税務訴訟などにも関わる。民主党政権下の政府税制調査会専門家委員会委員。主な著書に「日本の税金(新版)」(岩波新書)、「よくわかる税法入門(第8版)」(有斐閣)など。

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