「安売り?もうそんな時代じゃないでしょう」松井証券社長・松井道夫氏

「高い安いだけを座標軸にしたビジネスは、いずれ壁に突き当たる」

商売をしていて痛切に感じるのは、高い安いだけを座標軸にしたものは、いずれ壁に突き当たることだ。日本はデフレが20年続いているから、物価は上がるどころか、むしろ下がっている。20年前に牛丼が200円ちょっとで食べられるとは誰も考えなかった。ドルに換算すると、たったの3ドル、1ドル150円だったら2ドルを割る。そんなに安く昼食が済む先進国は聞いたことがない。

デフレ時代のビジネス戦略は「安さ爆発」で、それが今のところ成功している。でもそろそろ終焉(しゅうえん)だろう。消費者が安さだけでは物足りなくなっている。俗にいう、「安かろう悪かろう」にシビアになっている。

いずれインフレに転換するだろうが、いったん下げた価格を上げるのは至難の業だろう。インフレで強烈な円安になっても、消費者はドルに換算してモノは買ってくれない。一方でコストは否応なく上がるし、円安はそれに追い打ちをかける。切羽詰まって質を下げたら、それこそ「安かろう悪かろう」と見なされ、致命傷となる。

デフレがよいとは当然思ってはいないが、単純にインフレ万歳ともいかない。不況下のインフレ、すなわちスタグフレーションの副作用に備え、今から準備しておかなければと思っている。消費者はますます財布の紐(ひも)を締め、まがい物は市場から締め出される。こうした議論も、可能性としては充分有り得るハイパーインフレとなると話は全く違ってくる。これは国家破綻と同義であり、それを前提とした無責任な議論をするつもりは私にはない。

証券業界の過当競争の結末

10年前、私は手数料自由化とインターネット普及という2つの風を利用して、証券業界に価格革命を起こした。それまで旧大蔵省の護送船団行政下にあったからこそ、常識をひっくり返せたのだと思っている。手数料を自由化前の3分の1にした結果、株の取り扱い金額は一気に100倍以上になった。収入は従って30倍だ。

でも、そんな夢みたいなことは長く続かなかった。手数料引き下げの過当競争が起きたのだ。6年前のライブドア・ショックあたりから加速し、手数料は自由化前の30分の1まで急落した。市場全体の売買金額が30倍になれば、つじつまが合うが、もちろんそんなことはない。むしろここ何年か、市場は急速に縮小している。

注目記事
次のページ
第三次産業革命の本質