一方、かしわ餅は東日本で生まれ、江戸を中心に流通したようだ。服部さんは「カシワの葉が新芽が出るまで落ちないことから、縁起が良く家系が絶えないように願う食べ物とされ、武家に重宝されたといわれています」と教えてくれた。カシワの葉が西日本にはあまり自生せず、東日本中心だったのも、関東で広まった理由の一つとみられる。
もちろん、関東以外にもかしわ餅は存在していた。江戸時代、呼び名が定まっていない各地の伝統菓子にちまきやかしわ餅の名称だけがついて広まった可能性がある。服部さんに教えてもらった文化年間(1804~18年)に各地の風俗習慣を調べた「諸国風俗問状答」をひもとくと、東北や九州などで、ちまきやかしわ餅に似た菓子の記述がある。関西ではカシワの葉の代用としてサルトリイバラが多く使われたようだ。
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古来、端午の節句に食べられてきたちまき。もっとも、近年は全国的にかしわ餅の勢力が増しているようだ。服部さんは「コンビニエンスストアの店舗網が拡大し、輸入品の葉で包んだかしわ餅が全国を制覇しつつある」と指摘する。
食文化の地域差が薄れていく中で、伝統を重んじる関西ではちまきへの愛着が根強く残る。単なる食べ物でなく、厄よけの願いも込められる。
京都では毎年7月の祇園祭にササの葉で作ったお守りのちまきが売られ、多くの人が買い求め一年間玄関先に飾るほど。今年は伝統と歴史をかみしめながら、節句のお菓子を味わってみてはいかがだろうか。
(大阪文化担当 安芸悟)
[日本経済新聞大阪夕刊いまドキ関西2013年5月1日付]