以前、当欄で「日本で最も低い山」として大阪の天保山を紹介したところ、読者から「私が住む和歌山には日本で最も短い川がある。ぜひ取材してほしい」とお便りが。その名も「ぶつぶつ川」。興味をそそる名前だが、いったいどんな川なのか。現地を訪れた。
大阪・天王寺駅からJRで南へ。本州最南端の串本駅で鈍行に乗り換え、ほどなく無人の下里駅に着いた。予約のタクシーで5分ほど。「ここですよ」。運転手さんが言う。
下車すると足下に川。何の変哲も無いように思えるが、これが日本最短の川なのか。「違うよ、そっちは粉白(このしろ)川。こっちこっち」。運転手さんが指さす方を見ると、いかにも頼りない水路のような流れが。あまりに細くて短いので見落としてしまった。
川べりに下りてみた。全長13.5メートル。民家と畑の脇にある石組みの下から湧き出た水は石垣沿いに流れ、あっという間に本流の粉白川へと流れ込む。川幅は最大でも1メートル足らず、水深は20センチくらいだろうか。
地元の那智勝浦町の粉白区長、福田和由さんに聞いた。「飲むとおいしいし、野菜を洗う人もいる。昨夏の台風で断水が続いた時は本当に重宝したよ」。地下から水が湧き出る際、ぶつぶつと気泡がたつ様子から命名されたという。水は清らかで通年セ氏で15~16度、夏は冷たく冬は温かい。地域に密着した川なのだ。
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正確に言うとぶつぶつ川は「日本で最も短い法指定河川」。国内の川は管理者が国の1級河川、都道府県の2級河川、市町村の準用河川に分かれるが、最長の信濃川以下、日本で数あるこれらの川のうち、最も短いのがぶつぶつ川なのだ。ちなみに、最も長い2級河川、日高川も同じ和歌山県を流れている。
ぶつぶつ川が和歌山県から2級河川の指定を受けたのは2008年。県河川課の松本耕次さんによると「周辺は自然環境が豊かなので、粉白川と一体で県が環境保全に努めるべきだと判断しました」とのこと。