兵庫・灘の酒、キレの秘密は奇跡の「宮水」湧水守る取り組みも

兵庫・灘の名だたる酒蔵が酒造りに使う「宮水(みやみず)」。キレがある灘の酒の源であるこの水は西宮市の海岸に近い一角だけに湧き出る。なぜこの場所でしか湧かないのか。調べると、独特の地形がつくり出す自然の奇跡と、これを守る人の地道な取り組みがあった。

500メートル四方にだけ湧く宮水

阪神電鉄西宮駅から南へ歩いて5分余り、大阪と神戸を結ぶ国道43号のすぐ南側に宮水の井戸群がある。湧き出るのは東西約500メートル、南北約500メートルの区画だけ。ここに「菊正宗」「大関」「白鹿」「沢の鶴」など灘の名門酒蔵が軒並み井戸を持つ。

宮水は老舗の櫻正宗(神戸市)の6代目当主、山邑太左衛門が1840年ごろ見つけたとされる。同社によると、当時は西宮と魚崎(神戸市)で酒を造っていたが、西宮のほうが常に出来が優れていた。太左衛門が西宮の仕込み水を魚崎へ運んだところ、同様に良質の酒ができたという。

水質検査や地質調査を手掛けるスミカワ研究所(西宮市)専務の済川健さんによると、宮水はミネラル分を多く含む硬水。一般にカルシウムとマグネシウムを炭酸カルシウム量に置き換えた硬度の値が1リットルあたり120ミリグラム以上になると硬水、それ未満を軟水と呼ぶが、宮水は180。市販のミネラルウオーターは通常30~40で、かなりミネラル分が多い。

リン成分、一般的な酒造り用の水の10倍

リン成分が一般的な酒造りに使われる水と比べて10倍含まれ、カリウム、カルシウムも多い。リンとカリウムは酵母の増殖を促す働きがある。また、適度に含まれる塩分はアルコール分解が進む効果があるという。一方、赤茶けた色やにおいの原因になる鉄分は「極めて少ない」。酒造りにとって理想の水といえる。

酒には軟水が使われることが多く、硬水で酒造りをしている地域は全国でも珍しい。硬水で仕込むと、キレのあるしっかりした酒になるといわれる。同じ近畿の酒どころ、京都・伏見は「御香水」と呼ばれる軟水を使っており、柔らかい味わいが伝統。「灘の男酒、伏見の女酒」と評される一因だ。

六甲山系の水はまろやかな軟水として知られる。新神戸駅近くの布引の滝から落ちる水は神戸市がペットボトルに詰めて販売しており、硬度は37。布引渓流の水はかつて、神戸港に入る外国貨物船の船員から「赤道を越えてもおいしい」と人気だったため、貯水池から船着き場まで直接パイプで送っていたという。六甲山系の水は宮水の源流の一つなのに、なぜこんなに性質が違うのか。