■「修復」よりも「修理」
甲冑は、革や鉄の小片に漆を塗って仕上げた基本部材「札板(さねいた)」を、絹や木綿、麻でできた組みひも「威糸」でつないで形成されている。威糸は重い札板を長年支えているために伸びたり、ちぎれたりしてしまっている。1年がかりで行われた今回の修理作業では、劣化した威糸に負荷がかからないよう、同じ色で染めた鹿革で約270カ所を補強。付着したほこりなどの汚れを綿棒などで慎重にぬぐい取った。
「保存状態が良すぎて、普通ならちぎれてしまっているような威糸が切れずに残っていました。下手に触ると壊れてしまう。非常に難しい作業でした」。小沢さんは振り返る。「これまで国宝や重文の甲冑の修理を45点ほど手掛けてきましたが、このための練習だったのかと思います」
工芸品の保存では、製作当初の姿に戻そうとする「修復」は行わず、劣化が進まないよう最小限の手を加える「修理」にとどめて現状を後世に伝えようというのが最近の考え方だ。小沢さんも化学薬剤は一切使わず、伝統的な素材だけを用いる。鋲(びょう)の打ち忘れなど製作した職人のミスも、補わずにそのままにする。「修理者は黒子。作家性や個性は不要です。誰が修理したのか分かるようではダメです」。小沢さんは淡々と語る。
東京国立博物館内にある小沢さんの工房では今月末、春日大社に伝わるもう一体の「赤糸威大鎧(梅鴬飾、国宝)」の修理が終わる。こちらも「竹虎雀飾」と並ぶ甲冑の傑作として名高い。同大社宝物殿では4月1日~7月31日、最高峰の鎧2体を並べて特別公開する予定だ。(文=竹内義治、写真=沢井慎也、浦田晃之介)