二兎は追える 社会の支援、成長を左右
Wの未来 世界を動かす(5)
中国で若者が急激に減っている。全人口に占める0~14歳の年少者の比率は昨年、16.5%と10年前から6ポイント減った。人口を意図的に抑える「一人っ子政策」が引き金だが、子どもがいない家庭も増え、政府や親世代は危機感を強め始めた。その矛先は結婚・出産よりキャリア形成を目指す女性に向かっている。
「ママ、私の新しい彼。大学の修士課程に通っていて家柄もいいのよ」。4月の連休に江蘇省の実家に帰省した劉愛平(仮名、28)は笑顔で紹介した。
■偽りの彼を紹介
しかし本当の彼氏ではない。この日、高速鉄道に乗る直前に駅で初めて会った「レンタル彼氏」だ。
「出租(レンタル)男友はいかが」。中国では大型連休前に通販サイトにこんな言葉が並ぶ。遼寧省大連市のあるレンタル彼氏は基本料金1日300元(約4770円)にオプションでパーティー出席50元など細かく設定。仕事や研究に忙殺され、結婚は後回しのキャリア女性は結婚間近と装い、親の圧力を当面和らげようとする。
なぜそこまで……。中国では27歳を過ぎた女性について「剰女(余った女性)」との呼び方もあるという。政府直轄の中華全国婦女連合会はウェブサイトに「学歴で競争力を高めようとする女性は博士号取得時には年を取り価値が下がる。黄ばんだ真珠のように」と論文を掲載した。独身のキャリア女性にとって、レンタル彼氏はゆがんだ価値観への抵抗という面もある。
もちろん、働く女性が増えると子どもが減るという単純な話ではない。スウェーデンやフランスは女性の労働参加率が高い上に、女性1人当たりの子どもの数も多い。では日本の課題は何か。国際通貨基金(IMF)は昨年、女性が活躍しにくい先進国として日本を取り上げ「政策が重要なのは明らかだ」と指摘した。
ドイツは2007年に育児で仕事を休む親の所得を保障する制度を導入した。実はドイツでは母親が自宅で子育てするのが望ましいという意見が根強い。特に旧西独地域では「母親が働きに出ると子どもがかわいそう」と考える人が6割余に達する。
出生率はまだ低いが、制度導入後、男性の育児休暇取得率は5年間で5倍の26%に上昇した。「(高所得の)高学歴世帯では出生率の低下に歯止めがかかってきた」(ドイツ連邦人口研究所研究主幹のユルゲン・ドルブリッツ)という。
■出生率が上昇
昨年来日したIMF専務理事のクリスティーヌ・ラガルドが「日本の手本」と紹介したオランダ。子育てしながら働く環境を整えようと、パートタイムでの働き方を重視している。同じ仕事内容ならフルタイムと時給を同水準にし、男性向けの柔軟な育児休暇制度も導入した。
その結果、男性のパート勤務比率も欧州連合(EU)の平均の3倍の24%に上った。05年に一連の施策を導入して、昨年、出生率が8年ぶりに上昇に転じた。
結婚や出産は個人の生き方だが、女性の社会進出とともに各国が共通に直面する少子化は社会の成長を左右する。個人の選択も、社会の活力も、どちらも重視する最適解を探る。その先に、女性が、そして全ての人が輝ける世界が待っている。=敬称略
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