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女性活用を率先垂範 バラで送られたアイスランド首相

2013/5/9

 4月26日、北欧の島国アイスランドの首都レイキャビク。現地の暦では季節は夏を迎えたが、朝晩は氷点下に下がり、時には雪がちらついた。この日を最後に35年の政治活動を終えるヨハンナ・シグルザルドッティル首相(70)は晴天の下で穏やかな表情を浮かべていた。集まった大勢の支持者が1輪ずつバラを手渡し、同国初の女性首相をねぎらった。

 2008年秋の金融バブル崩壊による破綻から安定成長に回帰しつつあるアイスランド。復活の起点は、銀行の暴走を許した当局の怠慢に対する国民の怒りだった。台所から持ち出した鍋を官庁街で打ち鳴らして抗議する「キッチン革命」は08年末から09年初めまで続き、当時の保守系政権を退陣に追い込んだ。混乱の末、09年2月に誕生したのがシグルザルドッティル政権だった。

 シグルザルドッティル氏はもともと中道左派政党に所属する社会保障の専門家。国民の目線で政策に取り組む姿勢から「聖ヨハンナ」とも呼ばれた。客室乗務員から政界に転じた経歴、そして、自らが同性愛者だと公表した真っすぐさ。政治手法にもそんな人柄がにじみ出た。

 首相に就いた直後、中央銀行総裁に転じていた元大物首相を更迭。財政再建に向けた増税や歳出カットを断行した。家族主義的な雰囲気の残る人口32万人の小国で、しがらみやなれ合いにとらわれない姿勢を貫いた。「地に落ちた政治への信頼を取り戻したことが、経済の回復を支えた」とレイキャビクで不動産業を営む男性、スベリ・グッドジョンソンさんは話す。

 父親のファーストネームを姓に使う独特の慣習で知られるアイスランド。かつての男性社会の反動とも映る女性の社会進出を決定づけたのも、シグルザルドッティル氏の功績と言える。「女性の知性をフル活用できない社会は賢い社会でない」と口癖のように語り、率先垂範とばかりに閣僚の半数に女性を起用した。産業界に対しては、従業員50人以上の企業に女性役員比率を最低4割と義務付ける制度を導入。世界経済フォーラムの男女平等に関する調査でアイスランドが134カ国のトップに立つと「今後もこの順位を維持したい」と素直に喜びを表した。

 「危機後に受け取ったバトンを誰かに渡す時が来た」。総選挙後に政界を引退するという昨年秋の宣言までには、胸の内の葛藤があっただろう。厳しい緊縮策で支持率が下がっても、目先の人気取りに転じなかったシグルザルドッティル氏。4月27日の総選挙での与党敗北は、もう覚悟していたに違いない。

(レイキャビクで、上杉素直)

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