女性の活躍推進 語録にみる細谷英二氏の真意
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東日本旅客鉄道(JR東日本)とりそなグループで女性の活躍推進に尽力した故・細谷英二氏。昨年11月に亡くなった細谷氏の生前のインタビューや著述からその真意を探った。
りそなホールディングス会長に2003年6月に就任した細谷氏は「女性に支持される銀行を目指す」と宣言。そのためには商品・サービスにも女性の視点が重要だとして、旧来の金融機関の常識にとらわれず、女性社員を積極的に活用する姿勢を明確にした。
「公的資金が注入され、経営状況は目を覆うばかり。社員報酬を3割カットするなど社員の待遇にもメスを入れた。すると30代の優秀な男性は転職で社外へ流出し、残った社員のモチベーションも下がった。ただ経営立て直しには人材力の底上げが欠かせない。その答えが女性の潜在力を生かすこと」
(2012年4月9日、日本経済新聞生活面『トップが語るワークライフバランス』)
ダイバーシティー経営の重要性を意識する経営者は多いが、女性の活躍推進にかける細谷氏の熱意は際立っている。何がそこまで駆り立てたのか? 原点は国鉄時代の苦い経験にあるという。
「このとき東大経済学部出身で、どうしても国鉄で活躍したいという女性が訪問してきました。乗り物が好きで、大学時代は運動部のマネージャーを務め、自分は男性社会の中に入っていっても適応できると強調していました。国鉄では、発足以来、医者と心理学者以外で女性の幹部候補の大卒を採用したことはなかったのですが、若いリクルーターと何回か面談し、非常に魅力ある女性なので、私の段階で内定を出しました」
「ところが担当の常務理事から副総裁のところに話が上がると前例がないから絶対にだめだと言われてしまいました。そこで彼女を呼び、正直に実情を話しました。当時は11月1日に筆記試験を実施し、そのときに正式に内定を出すことになっていました。彼女には、内定は出せないので試験に来てくれるなと頼みました」
「試験には来なかったので、ホッとしていたら、ほどなく総裁の秘書役から呼び出されました。総裁あてにこんな手紙が来ているがどんな事情があったのかと尋ねられました。彼女は国鉄への思いを連綿とつづった直訴状を送ってきたのです。話はここで終わってしまったのですが、私は企業として二度と能力のある女性の夢を奪うようなことをしてはいけないと大いに反省しました」
「JR東日本になってからは採用活動には携わらなかったのですが、89年に女性事務系総合職の1期生が入社してきたときには本当に彼女たちを活躍させたいと思いました。運輸省(現・国土交通省)上級職で初の女性職員や、高島屋や富士銀行(現・みずほ銀行)の女性総合職の1期生らと引き合わせるなどボランティア的に支援してきました」
(2010年9月20日、日本経済新聞電子版『細谷英二氏の経営者ブログ』)
りそなでの改革も決して順風満帆ではなかった。真意を直接社員に伝えるために小規模なミーティングを重ねた。ある時、参加してきた妊娠中の女性社員が、妊娠を勤務先の支店長に伝えたら「だから女は困る」と言われたと話した。細谷氏は企業風土を変える難しさを改めて痛感したという。
「以来、機会を見つけては女性活用の必要性を社内に訴え続け、私の本気さをメッセージとして発信し続けた」
(2012年4月9日、日本経済新聞生活面『トップが語るワークライフバランス』)
女性登用は日本企業に共通する課題だ。だが1986年の男女雇用機会均等法の施行から四半世紀を過ぎているのにいまだ実現できていない。どう対処すればよいのか、戸惑っている企業も多い。細谷氏は次のような助言を企業と女性に贈っている。
「女性の意識改革も必要です。社内に女性のネットワークをつくり、リーダーを育てる。女性の後押しをしない男性陣の意識を変えるには、経営陣が女性にチャンスを与え、女性が育っていく姿を見せるしかない。女性自身も、ネットワークをつくって高い目標に挑戦する。そういう積み重ねが組織風土を変えていくのです」
(2011年8月25日、日本経済新聞電子版『仕事再考』)
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