出身は「細谷塾」 女性登用、トップが花咲かせる
Wの未来 会社が変わる
りそな銀行大阪本社の高層階にある大阪業務サポートオフィス。フロアに並ぶ約240人のスタッフを見渡せる執務席に所長の射場信子(54)は座る。「こんなに大勢を束ねる立場になるなんて昔は思いもしなかった」。職場の男女格差は当たり前で、同じ支店に大卒同期入行の男性が副支店長で着任した時、射場は3ランク下の主任だった。
■会長自ら激励
転機は思わぬところから訪れた。2003年に経営統合で誕生したりそな銀行の会長に、社外から細谷英二が就任。「顧客の半分は女性。女性の視点を取り入れて企業価値を上げる」と女性の活用を打ち出した。
女性が働きやすい職場を検討するチームの提案は次々採用された。「企業文化は変わらないと思っていたが『女性の力が必要』という会長の言葉を何度も聞くうちにその気になった」
細谷が会長を兼ねたりそなホールディングスの課長以上の女性管理職比率は現在14%。いわば「細谷塾」が始まって10年間で約3倍になった。先頭集団はホールディングス傘下で経営層にまで進む。りそなビジネスサービス(東京・台東)専務の森谷由美子(58)もその一人だ。
03年、りそな銀行の支店長に就任。その後、女性だけの渉外チームを任された。「営業は男の仕事」と言われていた中、外回り経験もないメンバーは努力を重ね目標以上に売り上げた。すると細谷が支店に突然現れメンバーをねぎらった。「会長は雲の上の存在。感激でモチベーションがさらに高まった」
08年には細谷に推され埼玉りそな銀行の常勤監査役に就いた。大手行で初の女性生え抜き役員だ。
古巣の東日本旅客鉄道(JR東日本)でも細谷塾出身者が多数いる。同社が大卒女子の本格採用が始まった1989年に入社した女性たちが1期生。駅構内に百貨店並みの店をそろえ、今や日常に溶け込んだ「駅ナカ」事業をけん引したメンバーも育った。
89年入社組の一人、事業創造本部部長の周藤晴子(47)は「20代の頃から最近まで何かと気遣ってもらった。3年前に私がグループ会社の社長に就いた時も、相談相手に女性社長を紹介しようかと連絡をくれた」と振り返る。
■失敗恐れず起用
01~05年にJR東日本フロンティアサービス研究所長を務めた武蔵大学教授の江上節子(62)は、当時副社長だった細谷が女性社員を伴って昼食に行くのをよく見かけた。「さりげなく女性社員の本音や悩みを聞き、力を発揮できるよう事業や人事の案を社長に伝えていた」と証言する。
男性中心の企業社会で女性が実力を発揮するための条件はいくつもある。本人の自助努力はもちろん、周囲の理解と協力、公平性を保つ制度……。だが、とりわけ経営トップの役割は重い。
それは雨垂れが石をうがつような息の長い改革に、最後までやり遂げる覚悟と気配りを持って取り組むことにほかならない。昨年11月に亡くなった細谷はその半年前、力強く語っていた。「女性には潜在力がある。失敗を恐れずに任せれば育つ」と。(敬称略)
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