自分の立場をどう生かすか考えて
石倉洋子・慶応大大学院教授
Wの未来 会社が変わる
女性が会社や経済をけん引するようになってきた。経営戦略が専門で、国内外で女性活用の問題についても発言している石倉洋子・慶応義塾大学大学院教授に、女性が日本企業をどう変えていくかやこれからの課題について聞いた。
――女性活用の機運が高まっています。
「企業や政府がこのままではやっていけないと感じ始めたのに加え、国際通貨基金(IMF)や世界経済フォーラムからも注文がつくなど外圧も高まっています。これまで個別に話があってもなかなかまとまりませんでしたが、同時に色々な話が動き出しています。この勢いをどう実際の女性活用につなげていくのかが重要になります」
「背景には、少子高齢化が進み続け、日本はどうしたらいいのか?という問いがあります。人口が減り、働き手がいなくなった時に一番活用しやすいのは女性です。人が足りないという議論になると、必ず移民政策の話になりますが、まず足元からできることがあります。それが女性の活用でしょう。日本の女性は教育水準も高く、健康状態も良いのに、労働市場への参加がなかなか進まないという問題があります。たとえば教育が足りないとなれば時間がかかりますが、日本人の女性ならすぐに効果が出ると期待ができます」
――女性がもっと増えれば企業文化が変わっていく可能性はあるのでしょうか。
「あると思います。ビジネスやイノベーションでユニークさがカギになる時代です。他の人と違うというのが大事で、知り過ぎた専門家ばかりが求められているわけではありません。女性は男性が体裁を気にして聞けないような疑問を投げかけていく役割を果たせるのではないでしょうか」
「要するに『どうしてこうなっているのですか?』という問いかけが、今の日本企業には必要です。多くの企業は(新卒で入社してから)同じ企業文化で育ち、年齢も近く、国籍も同じという人ばかり。前提条件に疑問を感じなくなっています。新しい人が企業に入ってくれば、違和感を覚えるのは当然です。国際化や買収などでもそうですが、日本企業は少しやってみてうまくいかないと、二度とやりたくないと閉じこもってしまう。女性活用や外国人の活用もまさにそれで、なんとなく違和感があり、少しうまくいかないと、そこでくじけてしまっている。そこに耐えることが必要です」
――女性が関わった製品などでは「女性の視点」とよく言います。
「女性の視点といっても、色々な人がいるわけで、必ずしもそれだけではないと思います。女性の視点にこだわり過ぎると、そこから広がりがありません。私が必要だと思うのは多様性です。色々な見方やアイデアが組み合わされて新しいものが生み出されます。世界は多様で、企業の多くはその世界で活動しています。社内に多様性をどうやって構造的に作っていけるが今の一番の課題でしょう」
「特に大きな企業のトップは結構な危機感を持って、新しいアイデアを得るためにはダイバーシティ(人材の多様性)を進めないと大変だと感じています。今までの女性活用のやり方では立ちゆかないというのは段々わかってきているのでは。ただ女性活用で出てくる企業の顔ぶれはあまり変わらず、それ以外のところからは大きな動きが見られるとは思えません」
「私は男性にとって競争相手が増えることが(女性活用が進まない)主因だと思っています。企業全体が成長している時代ではないので、ポジション自体が減ってきています。そこに女性や外国人という競争相手が現れるのは困るというわけです。建前では色々な理由をつけていますが、競争相手が少ない方がいいというのが本音でしょう」
――女性が働きやすい環境を整えていくには何が必要でしょうか。
「評価の方法が変わらないとなかなか難しいですね。女性だけでなく若い人も同じで、より公平な評価システムや機会を求めて、優秀な人ほど海外にどんどん出ていってしまうでしょう。たとえば生産性でも、単位時間あたりの生産性で見るべきです。1日でみれば長くいるといた分だけ、それなりに生産性が上がってしまうからです。短時間でも仕事ができればいいとなれば、テレワークなど会社に来なくてもいいという発想も生まれ、かなり働き方が変わる可能性があります」
「日本企業では成果に対する個人の貢献があやふやになりがちです。職場の人間関係の中で、なかなか『私の成果です』と言いにくいところがあります。女性の場合、自分の実力が認められやすいエンジニアなどの専門職の方が働きやすいかもしれません」
――数が少ないのでビジネスの場で覚えてもらいやすいなど、女性ならではのメリットがあるのも事実です。
「その通りです。職場で自分が犠牲になっていると思っていても仕方がありません。自分の立場をどう生かすか考える方が大切です。企業や社会に対して自分にしかできないことが何なのか考えると、そこからアイデアが生まれてきます。世界が大きく変わりつつあるので、全く新しい働き方や自分の生かし方、企業や社会への貢献を考えてみることが大切です」
(聞き手は平野麻理子)
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