気がつくと現場に活力 女性がしなやかに革命
Wの未来 会社が変わる
抜群の営業成績を誇るチームが人材派遣のパソナにある。7人のメンバーに共通するのは(1)いち早く帰宅する(2)子育て中の女性――の2つだ。通称「キャリアママチーム」の成約率は男女一緒の他チームの2倍。「一分一秒でも無駄にできないからこそ知恵が出てくる」とチーム長の矢野美紀子(38)はほほ笑む。
■ママらが指南役
2011年、産休中だった矢野は社長の佐藤スコット(43)から「どうすれば産休明けの女性が活躍できるか」と宿題を出され、ママチームを提案した。
矢野は今、業務効率化の指南役として社内で引っ張りだこだ。秘訣は情報とノウハウの徹底した共有化。毎朝ボードに各人が進捗状況を詳細に書き、その対応策を教え合う方法を披露する。同社では第2、第3のママチームが近く発足、いつのまにか「男性社員にもプラスの影響を与えている」(佐藤社長)。
経済協力開発機構(OECD)の分析では、日本は欧米諸国に比べ労働生産性が低く労働時間が長い。かねて指摘されながらままならなかった日本の長時間労働の改善に、短期集中という新たな武器を働くママたちが持ち込んだ。三菱化学も育児中の女性の働き方をヒントに、昨年11月から全社員を午後7時に退社させて生産性を上げている。
愛媛県今治市のホコリ舞う建設現場。「それはこっちにつけて」。檜垣久美子(33)は父親ほど年の離れた職人に対等に「タメ口」で指示する。重松建設(同市)に勤める檜垣は戸建て住宅の現場監督を務める。
古い体質のベテラン職人の力が大きく、現場監督が気兼ねしていた現場。檜垣がタメ口なのも監督として対等な立場をはっきりさせるためだ。当初は段取りが悪いと怒鳴っていた職人も、めげずに繰り返すうちにいつしか「なにかと気が利くし娘みたい」と評価が変わった。波及効果を実感した社長の重松宗孝(53)は「女性の採用を続ける」。
男性職場だった工事現場にも女性の活躍が広がる。03年から女性の技術職採用を始めたゼネコン大手の大成建設では今、国内外の土木・建築現場で85人が働く。
■海外で婦唱夫随
米ニューヨークの三井物産オフィスで投資業務を担う千歳敦子(41)の遅い帰宅を毎日迎えるのは、1つ年下の夫と6歳の長男だ。「海外勤務の機会があったら飛びつくからね」。かねて宣言していた千歳に辞令が出たのは10年秋。大学の研究者だった夫は迷わず仕事を辞めて一緒に渡米、長男の弁当作りや送り迎えなど家事一切をこなす。
新人の頃はあまりの忙しさに出産後も働けるか不安だったが今は"婦唱夫随"ともいえる夫の支えがある。「イノベーションにあふれた米国企業は魅力的」。千歳は全米を駆け巡る。
かつては海外赴任者の妻にホームパーティーの開き方など内助の功を伝授する研修もあった商社。10年前に10人だった大手5商社の女性赴任者は現在175人に増えた。
「日本型」の企業風土をしなやかに染め変えていく女性たち。その革命の先には新たな日本の企業社会の自画像が浮かぶ。(敬称略)
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