自分のロールモデル、どう作る 小林いずみ氏に聞く
Wの未来 やればできる
――多数の企業から社外取締役を依頼される理由をどのように考えますか。
「日本企業ではなく、MIGAや外資系金融機関で働いてきたことが大きいと思います。経済性を重視して、賛成と反対をはっきりしながら検討・分析するといった欧米の議論の仕方や、途上国開発のリスクマネジメントをしてきた経験を生かしてほしいのだと考えています」
「特に約4年半の間働いていたMIGAには世界各国の意見が集まってきました。そこで多様な社会の見方を学びました。実際にアフリカ、中東、中央アジアなど途上国も30カ国ぐらいまわりましたが、電気も水も十分じゃない。実際にそれがどれだけ経済発展の足かせになっているか目の当たりにしましたが、おそらく日本にいたら分からないことです。経済発展に応じて人々の需要がどこに移っていくのかもなんとなく分かってきました。女性だからというより、こうした日本にいては気づきにくい異質な視点が求められているのだと思います」
――リーダーとして組織をまとめていく際に意識してきたことはありますか。
「問題が起きた時も、共通して見える解はなんだろうと最大公約数を探してきました。MIGAで働いていた時は53カ国から120もの人が集まっていました。なので100%納得する答えを見つけるのは難しいけど、違った見方を取り入れることで想定外の見方がみつかることがあります。社外取締役としても同じ社内の人たちだけで話していたらボツになってしまうようなことに別な価値を見いだすのも我々の役目じゃないかと思っています」
「もともと私にはロールモデルがいませんでした。もちろん活躍している女性はたくさんいらっしゃいましたが、教育や働いている場所などバックグラウンドが一緒ではない、自分とは違う人な訳です。同じように私ができるわけではないし、あるいはロールモデルの人が不得意なところを自分は持っているかもしれない。なので私はロールモデルは合成して自分の中に作るものだと思っています。なのでお話ししているのはあくまで私のスタイルであって、皆さんにとってもベストだとは限りません」
――自分だけのロールモデルをどのように作り上げてきたのでしょうか。
「与えられた仕事の中で自分自身を最も有効活用するにはどうすればいいのかを考えました。その中で役に立ったのは、それまで自分を育ててくれた人たちが自分のどの部分が周りの人と違って育てる価値があると見てきてくれたのかなということでした。あとは自分の信条です。私はいろんな上司に仕えてきましたが、男女関係なくどういうマネジメントスタイルでどういう人でありたいのか、いろんな人たちからピックアップしていきました」
「一番大きく影響を受けたのは、メリルリンチの時に一番長く仕えた上司です。彼は後に米国本社の社長になりましたが、日本にいる間に日本人のスタッフをきちんと管理職に育てなくてはならないという意識を持って、それぞれのユニークな強みを育ててくれた。自分の強みを知るにはもちろん時間がかかります。いろいろな経験の中で、自分にむいてそうだなとか、自分だったらもっとうまくやるのにな、っていうのが他の人との比較でだんだん分かってきます。特にいろんな修羅場を経験すればするほどね。私は自分の意見や答えが強くない分、まわりの意見を取り入れてきましたが、これは弱みの裏返しでもあります」
――働く女性に向けてメッセージをお願いします。
「まわりはどんどん動いて変わっていく分、自分がいる場所が居心地がいいからといって、そこにずっととどまっているのは何かを失っているということです。特にビジネスの世界では永遠に続くものなんてないのです。ただ昇進するということではなくて、組織・社会の中でどのように自分の存在価値を高めていくのかは考えていなくてはいけないと思います」
「今、自分がいる目線で見て将来の自分の姿を想像してもあまり意味がありません。自分自身が、20年前、あるいは30年前に今の自分がこういう状態だったと想像できたかといったら全く想像できない。自分の将来の姿は目の前のことからどんどん発展させていくものではないでしょうか」
(聞き手は渡辺絵理)
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