汗かかなくても自然に回る組織に

主婦の再就職など女性のキャリア支援を手掛けるキャリア・マムの社長で、多様な働き方の実現を訴えている堤香苗さんに、ゆるキャリが登場した背景や企業側の対応などを聞いた。

――私生活も充実させながら、ゆるやかに働きたいという女性が目立ちます。

「働く女性の考え方の土台が変わってきています。ゆるキャリは休暇もたくさん取り、あまり働かないと誤解されやすいですが、彼女たちはキャリアを積む際に、会社が求めるスピードに無理やり合わせるのではなく、自分はこうありたいというビジョンを持っているだけです」

「結婚や出産、親の介護など、女性は人生で働き方のギアをチェンジする場面に出くわします。ギアを落とすべき時に会社の言うとおりにアクセルを踏み続けると、おかしな事になります。ゆるキャリと呼ばれる人たちは、ライフスタイルの変化に応じて自らが柔軟にギアチェンジをして働いています」

――職場には仕事に生きがいを感じる「バリキャリ」など様々なタイプの女性がいます。

「仕事を頑張りすぎる優等生タイプの女性こそ、ゆるキャリ的な視点を取り入れるとよいでしょう。このタイプは他者の期待に応えようとするあまり、自分の気持ちに素直なことをわがままだと考えてしまいます。思い詰めて心が折れ、うつになる人もいます。それは会社にとっても大きな損失です。自分なりの生き方を大切にするようにアドバイスすべきです」

「一方、ゆるキャリ志向の中には、なるべく楽をして働きたいだけというタイプもいますが、そんな人には一度ボランティアを経験させるといいでしょう。人のために動き、自分が周りに生かされていることを実感すると働き方も変わってきます」

――ゆるキャリが増えると企業にどんな影響を及ぼしますか。

「人材管理などマネジメント能力が問われます。特に中間管理職は大変でしょう。今までのやり方では通用しないのは明白です。これまでは会社のために汗をかく人がたくさんいることを前提に組織が成り立ってきましたが、これからは汗をかかなくても自然に回る組織を目指さなければなりません。結果を出して当たり前という考えではなく、達成までのプロセスを丁寧に説明したり、しっかりとほめたりすることも大切になります。また女性は会社のためではなく、『この上司なら』と人のために働く傾向が強いので、一緒に仕事をして楽しいと思わせるような上司の人間性が試されるでしょう」

――女性管理職とゆるキャリ部下の関係は。

「管理職にいる女性はキャリアアップするために結婚や子どもなど何かをあきらめて来た人たちが多いのです。そんな人は何もあきらめたくないという、ゆるキャリの部下に腹が立つでしょう。ただ、自分の考えを押しつけても反発されるだけ。女性上司がゆるキャリの考えを身につけるべきです」

「仕事以外の時間も人間らしく過ごしているか見直した方がいいでしょう。例えば、上司が毎日午前2時半に起きて家事を完璧にこなしていては、『あの人は違う』『私には無理』と受け取られ、部下の共感は得られないでしょう。一般的な生活者の視点を身につけることです。NPOといった地域の活動に参加するなど会社とは異なる価値観を学ぶ努力をしたいものです。経験を重ね、視野を広げた上司のもとでは、部下も非常に働きやすい。そんな女性管理職が増えれば、男性の管理職は駆逐されるかもしれません」

――ゆるキャリの女性が職場で気をつける点は。

「自分ができる範囲内の仕事を丁寧にやることです。責任を全て担う必要はありませんが、中途半端な仕事をしてはいけません。手に余る場合は、周りにきちんと説明することが重要です。配慮されて当たり前と思わず、手伝ってほしいことをきちんと口に出し、感謝の気持ちを忘れないようにしたいものです」

（聞き手は田中裕介）