女性活用は企業戦略 内永ゆか子・前ベルリッツCEO
日本IBMで専務執行役員を、ベルリッツインターナショナル(現ベルリッツコーポレーション)で最高経営責任者(CEO)を務めるなどし、企業の女性幹部候補生の育成を目的にしたNPO法人「J-Win」の理事長も務める内永ゆか子氏に、女性経営者が誕生する背景や働く女性の問題について聞いた。
――米国のIT企業などで女性の経営トップが相次いで誕生しています。
「国際化で企業間の競争のスピードは上がっています。1位になろうと思ったら、常にビジネスモデルを見直す必要があります。過去に成功体験を持つ企業ほど慎重になりますが、世の中の変化は激しい。対応するには今までにない独創的な発想が期待できるダイバーシティ(人材の多様性)こそ、大事な企業戦略になります。ただ、いきなり言葉や文化の違う外国人を活用するのは難しいので、身近な第一歩が女性の活用でしょう」
「女性の経営者が増えたのは、会社が変革しないといけないギリギリの状況まで来たことの現れ。若者の労働力が減るなかで、残った半分(女性)を使わないといけないというのも大きなモチベーションになっています」
――働く女性が増えると企業にどんな影響がありますか。
「日本の伝統的な人事システムを根本から変えるきっかけになるでしょう。長時間労働が難しい女性を評価するためには、成果を公平に評価する仕組みが必要になります。業務プロセスのオープン化が進み、長時間労働を是としてきた日本のホワイトカラーの生産性も改善するかもしれません」
「女性の活用は人権問題というより、ひとつの企業戦略だと強調したいです。だから、私が理事長を務めるNPO法人『J-Win』では個人ではなく、企業単位でメンバーを集っています。現在、企業メンバーは約100社。その企業で戦略的な女性活用が進むように、女性の幹部候補生たちを集めて、2年間必要なトレーニングを提供しており、一般的な女性の助け合いネットワークとは違います」
――女性が企業で出世する上での障壁は何でしょう。
「私自身が一番苦労したのは、目に見えない男性社会のバリアでした。まず新入社員の男性には毎日指導するのに、私にしてくれませんでした。意地悪でやっているのではなく、どうしていいかわからなかったのでしょう。セクハラやパワハラに対する目が厳しくなったので、今はなおさら遠慮しているかもしれません」
「誰も教えてくれないから、組織の中での立ち振る舞いからわかりませんでしたが、観察しているうちになんとなくわかってきました。気付くのに時間がかかりましたが、どうやら世界共通の悩みだったようです。IBM時代に世界中の女性幹部と話していたら、彼女たちも最大の障壁は『Good Old Boys Network』だと言っていました。そこに割り入っていくためには、結局人数を増やすしかありません」
――安倍首相が「育児休業3年」というコンセプトを打ち出しました。どう評価しますか。
「女性が本当に仕事を頑張ろうと思ったら、3年間離れたらもう使い物になりません。あまりにブランクが大きすぎます。企業も女性を雇えなくなるでしょう。安倍首相のメッセージは社会ができないことを企業に押しつけている印象を受けます。それよりも保育所を増やして待機児童を減らすなど、社会のインフラを整える努力をすべきです。別に税金だけでやる必要はなく、規制緩和をするなどビジネスが育つ環境づくりをしてほしいです」
「半年や3カ月で職場に復帰したいと思っていた女性たちのメンタルにも、プレッシャーを与えるメッセージです。『3年抱っこし放題』という価値観ができると、それ以外の道が選びにくくなると心配しています」
――専業主婦願望を持つ若い女性が増えているとの調査があります。
「本当にビックリする結果です。昔はほうきで家の中をはいていましたが、今は掃除機があり、洗濯機や乾燥機もあります。専業主婦が悪いとは言いませんが、家の中でやらなければいけない仕事の量は確実に減っています。自分の人生なのだから、誰かに従属するのではなく、空いた時間を社会貢献や自己実現につなげたいとは思わないのでしょうか」
「問題は働いている女性たちが大変だというメッセージを発しすぎているところにあるのではないでしょうか。自分の夢を実現するためではなく、夫の給料が安いから仕方がなく家計を支えるため働くイメージも強まっています。自分が稼いだお金で何でもできる自由や、社会に影響力を及ぼして、自己実現を果たすことなど、ポジティブな側面を知ってもらいたいです」
(聞き手は平野麻理子)
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